過去拍手
□教育実習生と恋する5題
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2.今だけは問題児で
「見事に赤点ね」
昨日、歴史の授業でテストがあった。
まぁ、さ。
誰にでも苦手なことってあるよね。
「皆さん手元にテストは返ってきましたか」
波風先生が教室を見渡す。
「今回のテストの出来は大変良かったです。よく頑張りましたね」
波風先生のお褒めの言葉に皆ざわざわと嬉しそうに囁き合っている。
「ですが」
なぜか笑っているその笑顔が怖い。
「全員がいい成績を残したわけではありません」
そうだね。
私のテスト酷いもん。
「このままでは進級も怪しいです」
え、本当!?
そんなに!?
「と言うことで、赤点の生徒は放課後補講を行います」
「えぇぇぇ!?」
思わず立ち上がって大声を出してしまった。
「ちょ、クシナ…」
「……あ」
皆に笑われたのは言うまでもない。
「うずまきさん、そこ違うよ」
「えぇ〜…」
放課後、私は社会資料室でマンツーマンの補講を受けていた。
今回赤点だったのは私だけだったらしい。
最初こそかっこいい先生を前に緊張していたのだけど、気安さと疲れと慣れから、まるで友達のような関係になってしまった。
「うーん、覚えはいいんだけどなぁ…」
「せんせー、疲れたー」
机にぐだーっとなって白旗を上げる。
波風先生は苦笑して、そうだなぁと鞄をあさった。
「りんごとぶどう、どっちがいい?」
唐突に聞かれた質問に一応「りんご」と返すと、「はい」と何か手渡された。
「…あめ?」
あめ。
別の言い方ではキャンディー。
「うん。疲れた時には甘いものだよ」
にっこり笑うその笑顔は、成人した男性なのになんだか可愛く思えた。
「ありがと」
私も笑い返し、あめを口に入れた。
うん。
甘くて美味しい。
「さて、もうひと頑張りしたら今日は終わりにしようか」
「よし!やるってばね!!」
その“もうひと頑張り”が終わったのは太陽が沈んだ後だった。