過去拍手

□お花見
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季節は春。

春といえばお花見。

といわけで、お花見に行こう!





「行こうってね、簡単に言うけどあんたは4代目火影様なのよ?」

突然ニコニコ笑う夫に呼び止められて、何を言い出すかと思えば。

私は食器を洗い終えると、夫に向き直った。



木の葉の里の長がそう簡単に花見なんぞできるわけがない。

そんなことは日頃から仕事に忙殺されている夫を見ていればわかる。

執務室にひきこもって書類整理に追われ、会議では難しい議題に頭を使い、部下の報告を聞き対策を練って。

だから仕事が休みの時くらいゆっくり休んでほしい。

そしてもう一つ理由がある。

火影ゆえに命を狙われることも多い、ということ。

だから外出はあまり好ましくない。

それに何か緊急事態が起こった時すぐに連絡を取れないと困るし。




そんなことくらい理解しているはずなのに。

何故そんなことをいいだしたのか、と考えているとふわりと暖かいものに体を包まれた。

言わずもがな、私はミナトに抱きしめられていた。

「俺の動力源は何か知ってる?」

突然のことに戸惑っていると、ミナトが優しい声で囁く。

動力源?

「えーっと…里に住む人を守るため?」

「それも理由の一つだけど、違うよ」

「え…」

何かわからなくて、抱きしめられたまま考えていると、名前を呼ばれた。

でもその声はさっきと違って、悲しい声。

「クシナ」

「なに?」

いったいどうしたのか、私はミナトの背中をポンポンと叩いて続きを促す。

それから少しの間の後、ミナトはつぶやくように言った。

「俺はクシナの笑顔が好き」

「…うん」

普段なら恥ずかしくて冷静でいられないけれど、その声が弱くて私は小さく相槌を打つ。

「…ねぇ、クシナは…幸せ…?」


そこに来て、やっとわかった。

何故ミナトが花見に行きたかった理由が。



私に笑ってほしくて。
幸せでいてほしくて。

もしかしたら、結婚したばかりなのに妻を放っておいてしまったという思いもあるのかもしれない。

私は頬が緩むのが分かった。

この人は全然わかってない。


私はミナトの服の裾を引いて腕を放すように要求した。

ミナトは少しためらった後、私を解放してくれた。

でも顔をそむけてしまった。

拗ねているのか。
はたまた怯えているのか。

でもこの人のこういうところが可愛い。


「確かにね、結婚してまだ1か月なのに3日に1回くらいしか家に帰ってこないし、帰ってきても寝るだけで次の日は朝早いし、放っておかれてる感じはしなくもないけど」

でもね。



「私、幸せなのよ?」

ミナトがわずかに反応した。

「毎日お弁当作って、休憩におしゃべりして、帰ってきたときは一緒に寝て。一緒にいられる、そんなことが幸せなの」

私よりも背の高いミナトの頭に手を乗せ、髪の感触を確かめる。

「だってミナトが私を愛してくれて、私もミナトを愛しているから」

流石にちょっと照れるけど、ここで言わなければ。

「だから場所はどこでもいいのよ?」

言いたいことを言いきって、髪の感触を楽しむ。

私のことを愛しているくせに、私がどれだけ愛しているかわかってない。

しばらくそうしていると、突然勢いよくミナトに抱き着かれた。

「な、何⁉」

「ずるい!」

今度一体何事か。

「俺のほうがクシナのこと愛してるのに!」

「………」

こ、この夫はいったい何を言い出すかと思えば…

「クシナに愛されてるのが分かって嬉しい。でも俺の方がクシナのこと愛してるのに!」

「…私の方がずっと好きだったってばね」

負けじと言い返すとミナトはミナトも言い返してくる。

「俺の方がいっぱい愛してるよ」

「………」

言い返したいけど、これは恥ずかしすぎる…

私がそんなことを考えていると、ミナトが腕をゆるめた。

そこでやっとミナトの顔が見れた。

ミナトは困ったように笑っていた。

ミナトは皆を不安にさせないためか、悲しい表情や困った表情をあまりしない。

だから、この表情を見れるのは私だけ。

妻である私だけ。

「でも今回はクシナの勝ちかな」

いつから勝負になっていたのかわからないけど、なんだか嬉しい。

「だからお花見に行こうか」

………

何が、「だから」?

私が困惑していることを知っているのに、ミナトは楽しそうな笑顔で言う。

「俺の動力源はクシナの笑顔。お花見に行ったらきっと楽しいよね?クシナも幸せになって俺も充電できる。いい考えだと思わない?」

…え、えぇと…?

「あ、安全面は大丈夫だよ。クシナに教わった結界を改造したやつを使うから。緊急連絡は俺の時空忍術でわかるようにするし。それに」

ミナトはにっこりと笑った。

「今日の分の仕事はあらかた済ましてきたし、それ以外の仕事は皆がやってくれるって」

ミナトの笑顔が怖くて、そう、としか返せない。

…でも思い返してみればこのひと月、新婚であるにもかかわらず、一緒にいる時間が少なかった。

お花見に行くくらいいいんじゃない?

ミナトをちらりと見ると、楽しそうに笑っている。

ひと月我慢したんだから、いいわよね?

私はあからさまなため息をついた。

「仕方がないから、お花見行くわよ」

私の言葉にミナトは嬉しそうに笑った。










2014.3.27
END

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