おだい

□言葉なんて期待してない
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下を向いて全力で走った。

誰もわからないように。

誰も知らない場所に。






「はぁ、はぁ…」

里の中心部から少し離れた森の中。

そこは静かで誰の気配もなかった。

「…っ、ふっ…ぇ……」

今日、聞かされた。



私は、九尾の人柱力になるために木の葉に連れてこられた、と。




最初は何を言われたかわからなかった。

理解した時と同時に、絶望とどうしようもない孤独感が生まれた。

不安で悲しくて誰かに泣きついてしまいたいけど、それはできなくて。




どれくらいそうしていたのか。

カサリと葉を踏む音がした。

ビクリとしたが顔は上げられなかった。

皆には強気で意地っ張りな女の子を通していたから。

それに





大好きな人の、気配だったから。






こんなみっともない所は見られたくない。

でも涙は止まらなくて声もうまく殺せなかった。

足音が近づいて、ふと体温を感じた。

抱きしめられている。

すぐにわかった。

ぎゅっと抱きしめられて、頭をぽんぽんとあやすようにたたかれる。

私は目をこすっていた手を相手の…ミナトの背中にまわして、顔を胸に押しつけた。

そうやってしばらく泣いていた。

その間、ずっとミナトは私を抱きしめていてくれた。




やっと泣きやんで私が落ち着いてきたころ、ミナトは「帰ろう」と言って私の手を引いた。


その手は温かくて、前を歩くミナトの背中はとても大きく見えた。

そして、この人が里を守っていくんだと感じた。






私もあなたと一緒に守っていきたい。

だから、この不安を乗り越えよう。

言葉はない。

もともと期待していなかったけれど。

でも、言葉はなくても、こんなにも私に勇気をくれた。

だから、前を向いて歩こう。

自分の運命をみすえて。


あなたと一緒に、いたいから。












人柱力になる事を知って。
END 2010/11/8

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