この恋は実っていた。

□第一章『春、出会い。』
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今年は桜が咲くのが遅いと、朝のニュースで聞いた。

ふと、窓から外を眺める。


「たしかに、いつもならもう花が咲き始めてるのに…」

窓越しに見える桜の木の枝には小さな蕾が可愛らしく咲いていた。
(やっぱり、今年は冬が長かったせいだろうなぁ〜、)

そう思いながら、止まりかけていた足を動かして教室に向かった。




2年3組―…
これから1年間世話になる教室の扉を開けると、まだ誰も居なかった。


当たり前だ。
現在の時刻、7時5分という早朝。教師だってまだ2人いるかいないかの時間だ。

思わず、苦笑してしまった。


今日は早起きしすぎたから、はやめに学校行こうと考えた数時間前の自分が少々馬鹿らしく思えたのだった。


「俺の席、どこだろうかなー?」

呑気に黒板に張られてる座席表を見れば、なんと俺の席は教卓の前だった。


(はは、1ヶ月我慢するか〜、つか俺には関係ねぇ〜し)

自分でも思うが、性格はマイペースだと思う。
今だって、普通なら嫌がる教卓の前が自分の席でもあまり苦には思わないのだ。



とりあえず、自分の席に座ってみる。
鞄から本を一冊出し、しおりを挟んであったページを開く。

「読書するときは、やっぱり静かじゃないとな…」

いつも廊下まで響いてくるような騒がしい休み時間の教室を思い浮かべる。
あんなに騒がしいのは、俺的に苦手だ。

(教師だってマジギレすりゃいいのにさー)

「はぁー…」

ガラッ…


俺が出した溜め息と同時に、扉の開く音がした。
そちらを向くと、スーツ姿の若い男が物珍しそうに目を丸くしたままこちらを見てきた。



「あー、もしかして担任のセンセみたいな?」

俺が緩く、軽くを心がけて話しかけた。
すると、担任らしき人物は丸くなってた目から一変、冷たい目に変えて教室に入ってきた。


「お前、登校するの早いんだな」

担任(仮)は教卓に持っていた資料をトン、と置いてからようやく口を開いた。
思っていたより低い声に少し感嘆しつつ、俺も返答をする。

「たまに、ですよ?今日はたまたまはやく起きただけです」

「…なんか、じじぃ体質だな、お前……」

少し呆れた目で見られた。
少し心が傷付いたが、これくらいはまだ大丈夫。
俺の心は防弾ガラス並だ。


「あ、ていうかセンセの名前教えて下さいよ。」
「お前な〜…。そういうときは自分の名前から名乗れ」


なんて、ケチな教師だろう…。
少しくらいの譲歩、いいじゃないか…。


「はぁ〜、仕方ないなァ…。俺の名前は伊野志貴(いの しき)ですよ。センセは?」

「何が『仕方ないな』、だ。俺の名前は広崎出流(ひろさき いずる)だ。」

「へぇ〜、そうなんすか。じゃあ、『広崎センセ』ですね。」

確認するようにして言う。
「……なんか、本当お前ってマイペースな性格してるよな」

はい、その通り。
でも時々神経質って言われるのはなんでだろう。
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