昨日の夜、初めて触れられた。
カカシ先生の長くきれいな指は、ちょっとごつごつしていて、大人の手をしていた。
きれいな人
街を見下ろせる部屋だった。
日が暮れ出し、家々にぽつぽつと明かりが灯り始めると、薄暗い部屋の窓から見下ろす街は、まるで星が瞬いているようだった。
「腹減ってないか」
いつもより、ずっと静かな声が鼓膜を揺らす。
明かりをつけていない部屋に溶け込んでしまうような、俺を包み込んでしまうような、そんな優しい喋り方だった。
大好きなカカシ先生の声。
いつもの調子じゃないのは、少しでも俺のこと、特別に思ってくれているから?
「……どうした?」
振り返ると、テーブルに体重を預けるようにして先生が俺を見ていて。
目が合って、俺は慌てて視線を窓の方へと戻した。
何で先生を見たら、こんなにどきどきしてしまうんだろう。
先生の長い足が好き。
先生の長い指が好き。
先生の綺麗な爪が好き。
広い肩幅も、柔らかい髪の毛も、笑うと細くなるその瞳も。
全部好き。
好きだって思うだけで、こんなに幸せになるくらい。
他のこと、何も考えられなくなるくらい。
最初は強さへの純粋な憧れだったのに。
いつの間に、こんなにも引き寄せられるようになったのだろう。
たまに先生は、その大好きな手で、俺に触れた。
俺も、理由をつけて先生に抱きついたりしていた。
でも、二人きりでこんな風に一緒にいたことは無くて。
ちょっと、どきどきした。
『今日、任務が終わり次第、呼びに来るから』
朝、何でもないことのように先生が言ったから、俺も何も考えずに先生についてきた。思ったことはといえば、任務が終わった後、一緒に居れるんだって嬉しくなったことくらい。
言われて、分かったって答えたら、先生がにっこり笑ったから、うまいラーメンでも食わせてくれるんだろうって思ってた。
まさか、こんなに立派な部屋につれて来られるなんて思わなかったから。
こんなにも、窓の外がきれいだって思わなかったから……。