牡丹

□愛しい人 〜きれいな人〜
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 昨日の夜、初めて触れられた。

 カカシ先生の長くきれいな指は、ちょっとごつごつしていて、大人の手をしていた。







きれいな人









 街を見下ろせる部屋だった。

 日が暮れ出し、家々にぽつぽつと明かりが灯り始めると、薄暗い部屋の窓から見下ろす街は、まるで星が瞬いているようだった。


「腹減ってないか」


 いつもより、ずっと静かな声が鼓膜を揺らす。

 明かりをつけていない部屋に溶け込んでしまうような、俺を包み込んでしまうような、そんな優しい喋り方だった。

 大好きなカカシ先生の声。

 いつもの調子じゃないのは、少しでも俺のこと、特別に思ってくれているから?


「……どうした?」


 振り返ると、テーブルに体重を預けるようにして先生が俺を見ていて。

 目が合って、俺は慌てて視線を窓の方へと戻した。

 何で先生を見たら、こんなにどきどきしてしまうんだろう。

 先生の長い足が好き。

 先生の長い指が好き。

 先生の綺麗な爪が好き。

 広い肩幅も、柔らかい髪の毛も、笑うと細くなるその瞳も。

 全部好き。

 好きだって思うだけで、こんなに幸せになるくらい。

 他のこと、何も考えられなくなるくらい。

 最初は強さへの純粋な憧れだったのに。

 いつの間に、こんなにも引き寄せられるようになったのだろう。







 たまに先生は、その大好きな手で、俺に触れた。

俺も、理由をつけて先生に抱きついたりしていた。

 でも、二人きりでこんな風に一緒にいたことは無くて。

 ちょっと、どきどきした。



『今日、任務が終わり次第、呼びに来るから』



 朝、何でもないことのように先生が言ったから、俺も何も考えずに先生についてきた。思ったことはといえば、任務が終わった後、一緒に居れるんだって嬉しくなったことくらい。

言われて、分かったって答えたら、先生がにっこり笑ったから、うまいラーメンでも食わせてくれるんだろうって思ってた。


まさか、こんなに立派な部屋につれて来られるなんて思わなかったから。


こんなにも、窓の外がきれいだって思わなかったから……。

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