牡丹

□視線
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カカシ先生が歩いてくると、歩いていた人達が振り返る。
長い足を持て余すようにゆったりと歩いていく。
少し曲がる猫背が、走る時に少しでも風の抵抗を少なくするためとか、女の人を抱いて寝る時についてしまった癖とか、色んな噂があるけれど。
そんな噂も様になるくらいに、スタイルがいい。
俺とか、ちょっと足短いかも。
カカシ先生を見ていたらいつも思う。
長い指で、長い足で、広い肩。


それは街の中だけじゃない。
アカデミーでも一緒。
俺ってば、ずっとカカシ先生と居るから分からないけれど、カカシ先生ってば、あんまり他の人と喋らないんだってばよ。
だから、皆ますますカカシ先生のいろんな事想像するみたい。
ただでさえすげーのに。
上級の任務に行く度に、何か伝説を作ってくるような人だから。
やっと二人倒して振り返ったら、カカシ先生が無傷で残りの全ての敵を倒して傷の手当をしてくれたとか。
カカシ先生と任務に出ることが、中忍とか上忍の人達の間で一種のステータスみたいになってるんだって。
話したら羨ましがられるし、話しかけられたらもう、それが自慢になるくらい。


歩いてるだけで。
じっと立っているだけで。
絵になる人。
きれいな、人……。
ほら、今も。
カカシ先生ってば、色んな人から振り返られてる。
(……やっぱりすげーってばよ)


「ナルト」
「ひゃっ?」
廊下の反対側を歩いていたはずのカカシ先生の声を突然背後に感じて、俺はびっくりして振り返った。
「なーに見てんの?」
「カカシ先生っ?」
心臓がばくばくしてる。
「なっ、何でっ、今、あっちに……」
目で追っていたはずの姿は、もう消えていた。
「もう、何か言いたいならはっきり言いなさいね。俺のコト、いつも見てるでショ?」
そう言って、ちゅっと額にキスをされた。
「……そんなに見てたら、ナルトが俺のものだってばれちゃうよ?」
我慢できなくて、人前でもナルトを抱き締めちゃうかもしれないから。
そう言って、カカシ先生が俺の頭を撫でる。
「今日はいつもより早く帰れそうだから、ふとん、俺のスペースも空けておいてね」
カカシ先生が、そっと俺に囁いた。
「カカシ先生」
「……あ、時間だ」
いつもは遅刻するくせに。
上級の任務は絶対遅刻しないんだって。その代わりに予定より早く帰って来るから、別にいいんだけど。
「じゃ、お前も頑張りなさいね」
カカシ先生が笑って。
「浮気しちゃダメだよ?」
俺の前から姿を消した。
もう。いっつもそんなことばっかり言って。
カカシ先生よりカッコイイ人が居るはずないってばよ。
その時ふと、視線を感じて。
振り返ると、角へと数人が隠れた。
『今の……まさか』
『カカシさん……いや、見間違いだろ』
『ねぇ、気のせい……?今、浮気……とか……』
ぼそぼそと声が聞こえる。
あーあ。カカシ先生ってば。
ちゅーとかするから見られちゃったってばよ。
「……先生の……ばか」
言いながら、頬がにやけちゃう。


俺の恋人は、すげー人。
かっこよくて、強くて。
ちょっと独占欲強くて。
すぐ、噂になる人。


「すげー……好き」
悔しいから言ってあげないけれど。
「ごはん、何作っとこうかな……」
先生の好きなものを作ろう。
風呂も沸かしておこう。
オレはうんといい匂いをさせて。



仕方ないから、ふとんも空けとくってばよ。




*何だかタイトルとのニュアンスが…まあ、いいか。
2006.7.18

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