頂き物・リクエスト2
□優しい声 ‐その後‐
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優しい声
‐その後‐
カカシ先生が復帰してからちょうど一カ月が過ぎようとしていた。
あの日、カカシ先生に鍵を渡して。
カカシ先生から言葉を貰った。
『カカシ先生と、同じ場所へ戻りたい』
声が出せなくなったカカシ先生のコミュニケーションの手段として使っていたスケッチブックは、今もまだ、オレの机の引き出しへとしまってある。
『お前だけが、戻る場所』
オレの希望に対する、カカシ先生の返事と共に。
きれいな、お手本のような字も、ぐにゃぐにゃの、オレのアカデミー時代の時のような字も。
カカシ先生の「死」の足音を聞きながら、何よりも強くカカシ先生の「生」を感じた。
静かでいながら、常に息遣いを感じさせた死神の鎌は、もう寸でまで、カカシ先生の首を刈ろうとしていた。
カカシ先生を楽に死なせる方法を考え、自分に嫌悪した。
そして、ともに死ぬことを希望した。
「死」について考えると、その強さと同じくらい「生」を感じるのは何故だろう。
人生の幕引きなんて言葉があるけれど、それと同じような感じだろうか。
幕が下りると同時に、観客はその劇を振り返り、思い出す。
生と死は、切っても切れない。
簡単に命は考えられない。
ばあちゃんが言った。
『そんなに……私達が信用出来なかったのか?』
カカシ先生を追って死のうと決意したとき、オレの中にはカカシ先生しかいなかった。
『全てを捨てるくらいに、私達の存在は軽いものだったのか?』
カカシ先生だけがすべてで、他の何も、オレの中には無かった。
オレが居なくなる事で、誰かが悲しむなんて、苦しむなんて、考える余裕も無かった。
『情けなかったぞ。これだけの人間が居て、誰も……お前の心にも引っ掛からなかったなんて。お前の苦しみを知ってやる者が、1人も居なかったなんて……』
カカシ先生を好きになって、大切だと思って、初めて知った。
オレは、色んな人に愛されていたんだって。
オレを大事に思ってくれている人が、こんなにたくさんいたんだって。
そして。
カカシ先生が、オレを愛してくれていたんだって……。
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2013.5.19.
※お待たせいたしました、まこと様。リクエストありがとうございます。