□糸の端
1ページ/39ページ


自分の中にあるのは、後悔と懺悔の念と追悼の念、それだけだと思っていた。

しかし、それらに裏付けされた立ち居振る舞いは、俺を、さも、思慮深く自信のある、懐の広い男のように周囲へと印象付けていた。



『寄って行ってよ、カカシさん』



俺を好きだと人が言う。



『どう、この後……』



愛していると人が言う。



けれど、どんな言葉を並べられても、心に届く言葉など無かった。



心に厚く立ちはだかった壁は、もう、俺自身ですらこじ開けることはできなくて。



自分自身の心の在り処を忘れた。

自分の心が、どんな形、色をしているのかさえ。



遠い幼い日の記憶でさえ、もう、輝きの色を失っていて。





『先生、好きだってば……』





そう告げた彼の目は、静かだった。



伺いの響きを織り交ぜた言葉なのに、それはどこか俺を憐れんでいるようにも見えて。






俺は、自分の表情が険しくなるのを感じた。











の端

――――
2013.8.27.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ