黒
□糸の端
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自分の中にあるのは、後悔と懺悔の念と追悼の念、それだけだと思っていた。
しかし、それらに裏付けされた立ち居振る舞いは、俺を、さも、思慮深く自信のある、懐の広い男のように周囲へと印象付けていた。
『寄って行ってよ、カカシさん』
俺を好きだと人が言う。
『どう、この後……』
愛していると人が言う。
けれど、どんな言葉を並べられても、心に届く言葉など無かった。
心に厚く立ちはだかった壁は、もう、俺自身ですらこじ開けることはできなくて。
自分自身の心の在り処を忘れた。
自分の心が、どんな形、色をしているのかさえ。
遠い幼い日の記憶でさえ、もう、輝きの色を失っていて。
『先生、好きだってば……』
そう告げた彼の目は、静かだった。
伺いの響きを織り交ぜた言葉なのに、それはどこか俺を憐れんでいるようにも見えて。
俺は、自分の表情が険しくなるのを感じた。
糸
の端
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2013.8.27.