□楔
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くぐもった息遣いに、傍に立っていた男はさして面白くもなさそうに目前で自分を睨みつけて来る男を見下ろした。

「……無様なものだな」

低い声は、石畳の昏い空間へと静かに消えていく。
何処かの地下牢か。
六畳程の石畳の部屋だ。
部屋の一面は壁が無く、コの字型になっているのは、そこに扉を付ける必要が無いからだろう。
壁から下がった拘束具。
捕らえられる相手は、逃げられない。
よって、扉でふさぐ必要は無いのだろう。
部屋の外、どこまでも続いているような石壁には点々と奥まで燭台が見えるが、明かりが灯っているのはこの辺りの三本だけだ。
ゆらゆらと影が揺れる。
何処かで滴る水音が聞こえた気がしたが、気のせいかも知れない。
カビのような、水が腐ったような臭いが鼻腔を犯す。

「……なあ、カカシ……」

呻くナルトを踏みつけ、男は、壁からの拘束具に繫がれ、声を出す事を禁じられたカカシへと冷たい視線を送る。

「俺はずっと、お前を組み伏す事を――地に突き落としてやる事だけを考えて生きてきた」
「……」

カカシを拘束している錠は何かの印が結ばれているらしく、カカシの両腕、手首から、身体全体を張り巡る鎖は、カカシの肌に軽い火傷を負わせると共に、カカシの動きを封じていた。

「何をしてもうまくいくお前と、何をしてもお前の影に隠れた俺と」
「……っ」

カカシが首を横に振ったのは、それを否定する為か、それとも、そもそもの、男の考え自体を非難する為か。

「だが、今、絶望している――」

歌う様に、何処か他人事の様に、男は呟いた。

「こんなにも……簡単な事だった。……こんなにも……」
「ぅぐっ」
「!」

不意に男は、傍に転がっているナルトの背を蹴った。
それは強いものでは無かったが、ナルトには十分なダメージとなっている。

「たかが1人の為にこんな見え透いた罠に飛び込んでくるなんてね」
「〜〜っ」

カカシの眼に非難の色が浮かぶが、声を出す事は封じられている。

「……カカシ、がっかりしたよ」

さして落胆もしていない様子で、男が目を細める。
――が、ふと何かに気が付いた様に、自分の足元へと視線を落とした。

「……それを……期待して、……俺を……攫ったんだろ……」

男の足首に、血にまみれた指が掛けられている。
声を出したのはナルトだった。

「……ああ、目が覚めたのか」
「……てめぇが、つついてくれた……からな」
「――ナルト」

冷ややかな男の眼が、足元で転がり、顔だけを上げて自分を真直ぐに見つめるナルトへと向けられる。

「よくそんな傷で生きていられる」
「っ」

足に掛けられた指を、足を振って外すと、男は自分の靴に付いたナルトの血をハンカチで拭った。

「まあ、血の気は多いようだし、これくらいじゃ死なないか……」
「お陰様、で、……てめぇをぶったおすまでは、死なねぇ……っ」
「うるさいよ」
「ぐっがぁぁっ」

伸ばされたナルトの両手が、何かによって拘束されると、そこに深々と指ほどもある杭が刺さり、ナルトの両手を地面へと縫い付けた。

「……身体に力が入らないだろう?」
「あ、あ……っふっ」
「それだけ傷の治りが早くても、痛みは感じるんだね」
「ああっ」
「違う、全身の傷が多すぎて、修復が間に合わないのか」
「うっ、あ……っ」
「この杭を掌に残したまま、傷が修復したりしないのかな。――一生、この地下に縫い付けられたまま……」
「ああっ! が、ぁっ」

杭を踏みつけられ、地面にひれ伏すようにして、ナルトは首を振る。
身体のあちこちにつけられた傷からは、まだ生々しい血液がポタポタと石畳に染みを作っていた。

「印も結べない、チャクラも練れない、身体の筋力を奪う。……たったそれだけの条件が、君を人以下の存在に変える。……ね、ナルト」

やっと、男の口元には薄い笑みが浮かんだが、それは決してナルトの解放を意味した者では無かった。

「ああ……、そうか。チャクラ量が足りなくて、傷が治らないのか」
「お、まえ……っ」
「――さて、そろそろ本題に入ろうか」

揺らめく蝋燭の明りに仄かに照らされた男の表情は、全く感情が読めない。
切れ長の目に、通った鼻筋、薄い唇、色白の肌がより一層、男の印象を酷薄のものにしている。

「もう、これ以上の痛みは感じないはずだ。それが残念ではあるけれど」
「なっ、な、に……」
「……」

それには無言で答え、男はナルトの身体を覆っていた――といっても、半分以上が破れていたが、辛うじてかかっていた衣類をはぎ取った。
カカシから再び非難の視線が向けられる。
カカシを捕えている鎖がジャラジャラと鳴ったが、男の行動を止める事は出来ず、ただカカシの身体に新しい火傷を作っただけだった。
男の手が、優雅に、しかし無遠慮にナルトの秘部を突然開く。

「……ふぅん、きれいだね。もっと使い込んでいるかと思ったけど」
「な、何、して……」
「君がカカシとしている事だ」
「なっ、やめ……っ」








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2016.3.13.
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