□「赤い月」−銀の雲−
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目を閉じて思い出すのは、ナルトの媚びるような笑み。屈託のない、輝く微笑みが好きだったはずなのに。――もう、思い出す事も出来なくて。

肌を重ねれば重ねるほど、遠くへと離れていくような気がする。

長い影は、姿を確認するよりも早く、ナルトの存在を知らせていた。

「……先生……」

ナルトがカカシを見る。しゃがんでいたナルトは立ち上がり、カカシへと手を伸ばす。張り付いた、どこか媚びるような笑みに、カカシは顔をしかめた。

「……先生……? どうかしたんだってば?」

ナルトは、こんなにも静かな、押し殺したような喋り方をする少年だっただろうか。何かを隠したような、そんな眼差しを揺らす相手だっただろうか。

(思い出せないよ、もう……)

「――別に。……別に……どうもしてないよ」
「ね、先生……ちょうだい」

カカシの腕をとり、その耳元へとナルトが口を寄せてくる。顔を合わせれば、すぐに誘う言葉を言ってくる。押し付けられるナルトの股間は、既に熱と硬さを含み始めている。うるんだ眼差しで。カカシを誘う。

「……寒くない? ナルト」
「……? 大丈夫だってばよ……。それより……、ね、先生……」
「……」

甘えた、誘惑をしかける声。それに、こんなにもた易くかかりながらも、心に風が抜けていくのは何故なのか。

『安心しろ、本気の恋なんてできねーよ』

アスマから吐き捨てられたのはいつだっただろうか。本気の恋なんて、忍びには邪魔だと強がった。しかし、アスマはカカシがその言葉を吐く事に違和など思ってもみなかった様子で。

(……本気の恋って……何なのよ)

カカシの世界の軸がこの腕の中にあるのに。それでも、これが恋だとは思えない。――いや、そう、感じられない。もしこれが世の中で言う『恋』の象徴なのだとしたら――……。

(……恋なんて……)

何が楽しいのか。何が原動力か。

「……?」

ナルトを腕に抱きしめ、苦しく目を閉じた時である。ふと、人の気配があると感じた。顔を上げると、少年の背中が見えた。カカシが顔をあげた時にはもう、彼は姿を消したが。

(……気になるの)

自分に新しい相手が出来た後であっても。――世間一般では、認められ、推奨される相手が出来た後であったとしても……。

(……お前にナルトは返さないよ)

例え、ナルトが幸せになれる相手が世界のうちで彼一人だったとしても。自分が、ナルトにとって、世界のうちで唯一不幸を与える相手であったとしても。

(……誰にも渡さない……)

服を脱がせたいわけではない。口づけをして、愛撫したいわけではない。身体の快楽を求めているわけではない。
それなのに何故、ただ苦しくさせるばかりのこの少年を手放したくないのか。同時に、この少年を苦しくさせているばかりだと分かっているのに――……。

(これが恋ではないというのなら……もう、俺は一生……)

きつくナルトを腕に抱いて。玄関の扉は、いつも以上に音を発てて閉まった。









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2007.12.17.
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