□「赤い月」−銀の雲−
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任務の最中、その異変は感じる事が出来た。ナルトの様子がおかしい。体調が悪いのだと、すぐに感じた。ナルトは普段と変わらぬようにふるまっているが……。
一泊二日を予定した任務である。サクラへ声かけはしたものの、サクラは首をかしげていた。
『いつもと変わらないじゃない』

サクラをテントへと寝せ、カカシはテントの外へと横になった。ナルトは『眠れないから』と、先に見張りを申し出た。

「寝てていいってばよ、先生」

ナルトが笑う。その笑いはいつもと変わりなく――張り付いたように、上手に不自然な笑みを作っていた。

横になった所で、すぐには寝付けなかった。いくら気を張っていても、瞬間的に眠ることは得意であるはずなのに。背後でナルトの気配がする。サクラはもう眠ってしまったのか。念のために、サクラのチャクラが漏れないように結界を張る。こうすることで、サクラも短時間で身体を休める事が出来るだろう。ナルトは星でも見上げているのか。時折、微かに動く音が聞こえた。

それから半時間ほど過ぎたか。ふと、ナルトが動く気配があった。カカシはうつらうつらとしかけていたらしい。

(……ナルト……?)

ナルトが、近付いてくる。呼吸がおかしい。なに、と思う時間があったか、どうか。

「……先生……」

小さく呟いて、カカシの肩へとナルトの手がのせられる。と、その手はするりと滑ってカカシの胸へと下りてきた。はっとして振り返る。

「……先生……オレ……我慢できな……」

振り返ると、今にも泣きだしそうな、しかしながら、それでも必死に笑みを浮かべようとしている眼がカカシを見つめていた。

「……したい……先生……オレ、何で……任務、なのに……」

その表情には、絶望に近い戸惑いの色が浮かんでいる。自分でも何故そうであるのか分からない様子である。必死に隠そうとしているナルトの股間は、既に持ってしまった熱を、衣服の上からも知らせていた。

(――インラン……)

そう思って、カカシは首を横に振った。誰が相手であっても――シカマルならば尚更――このように誘ったのかと思うと、それを想像して、燃えるような嫉妬に苛まれる。誰が原因であるか、何が原因であるか知っているのに。

(俺が……つくった)

最初のお泊まりで布団を用意しておくのは変に思われるかと赤くなっていた。それが……。

(……?)

ふと、気配がした。誰かが見ている。しかしその正体が、警戒すべきものではないと知り、カカシは目を細めた。いや、ある意味最も警戒すべきものであるのか。
どちらにしろ、ご苦労な事だと、カカシは小さく息を吐いく。瞬間、ナルトがびくりとしたように肩を揺らした。怯えているのか。

「……ご、ごめ、なさ……先生……オレ……」
「――謝らなくていいよ」

カカシが小さく笑みを浮かべると、ナルトはほっとしたようにカカシを見上げる。

「……いいよ、しても。ナルトがしたいように……」
「先生……?」
「サクラは起きない。術をかけたから。辺りにも結界を張った。逆に見つかりやすいけれど……まだ、ここは木の葉内だからね。……大丈夫」
「先生……?」

カカシの、思いのほか優しい声に、ナルトは何かを考えた様子だったが、欲求には勝てなかったのだろう。そっと、カカシの衣服へと手を伸ばした。

(……見とくといい。結界を張ったのに、逃げなかったお前が悪い)

眠っているサクラと、カカシの身体へと触り始めたナルト。そして、もう一つの気配。どこへ居るかも分かった。しかし、ナルトの行動に気を取られているのか。動かない。

(……いつから俺は、こんなになった……?)



見上げた目には、欠けた月が銀色の雲に見え隠れしている。ふと感じた何かの違和感は、慣れたナルトの指に、遠くへと押しやられた。








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2007.12.20.
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