□「赤い月」−銀の雲−
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気をやったナルトは、そのまま深い眠りへと落ちて行ってしまった。微かな寝息をたてるその頬に、涙の跡を見つける。横になったナルトの横へと座り、カカシはその髪を撫でていた。

月明かりの下で肢体をうねらせるナルトは、時間など簡単に止めてしまうほどに美しかった。大きな快感の波に襲われるよりも早く、その嬌態に目を奪われた。
泣かせたくなどないのに。
けれども、作った笑みより、媚態より、何よりも泣いているその姿が真実のように思われた。泣きながら、カカシの名を呼んでくる。
苦しいと。気持ちが良いと。助けて欲しいと。妙な笑いを作っているより、泣いている方がいくらか心が軽かった。

(彼は――まだ動かないね)

ちらりとナルトへ視線を送る。そして、サクラへかけたものと同じ術をかけた。

「――出てきていいよ。2人とも起きないから」
「っ……」

――思えば、最初、この立場はカカシの方だったのだ。
この位置を、奪ったのは……。



「……こんなに、誰かを最低だと思った事は無いですよ。――殺したいと、思った事も」



しげみから、シカマルが出てくる。ずっと、そこに潜んでいた。動揺でもしていたのだろう。消した気配も、時折漏れていた。――ナルトは、気付かなかった様子であるが。

「……だろうね」

自分でもそう思うとカカシは心で苦笑する。こんなにもひどい人間だと、今まで知らなかった。
しかし、どうしようもないのだ。時折襲う波は、ナルトだけではない。おそらくは、カカシの方が、もっと――……。

「――他の誰かで満足できるなら、この子をここまで消耗させてないだろうね」

いや、手も出していないだろう。
守れるものなら守りたかった。傷つけずに済むなら、傷などつけたくなかった。大切に大切に、誰かの腕の中だったっていい。そうだとしたならば、その腕ごと守ってあげただろう。そのはずなのに。

――その身体より、その心より、その存在より、もっと他に大切なものがあったのならば――……。

ああ、そうだ。大切なのに。何よりも、大切なのに。どうしてこうなってしまったのだろう? どうして、こうもナルトを泣かせてしまうのだろう?

「……欲しくて仕方がないんだよ」
「っ……」

銀の月が、眠るナルトを照らす。最小にしたランプの明かりはゆらゆらと揺れ、カカシを見つめて立ち尽くすシカマルの影を揺らしていた。

「満足が、来ない。こうしている、今だって……」

その全身に口づけ、撫で、抱きたい。

「寝せておく時間が惜しいくらいだ」
「――やめろよ」
「でも、起こして体力を消耗させたら、明日、抱けなくなるからね。明日まで我慢だ」
「やめろって――!!」
「……」

シカマルがカカシを睨みつける。

「……アンタ……何で、アンタ……」
「……」

カカシにだって理由など分かるはずは無かった。ひどい衝動が、言葉が次から次に出てくるのに。――それなのに。

「何でだろうね……」



泣いたって、どうにもならないのに。まるで想いを代弁するかのように、頬を雫が伝って行く。



いくら抱いても、満たされない。








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2007.12.21.
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