牡丹
□片恋(3/28〜)
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『……もう、任務済んだよ』
『っ……!』
突然の声は、座って膝に顔を埋めたすぐ上で聞こえた。
『帰らないの?』
『……カカシ……先生……』
顔を上げると、カカシ先生は目の前にしゃがんで、膝で頬杖をついてオレを見ていた。
カカシ先生に恋人が出来たと、イノとサクラちゃんが大騒ぎしたその日。
オレはそのまま川べりへと来ていた。
もう、風も冷たくて。
辺りはすっかり暗くなっていて。
泣き疲れていた。
それでも。
涙は思い出したように、後から後から溢れてきて。
『……ここ、俺も好きな場所だよ。邪魔していい?』
『……』
『ナルト?』
オレは顔を背けた。
カカシ先生が悪いんじゃないのに。
顔を合わせたくなかった。
けれど、帰って欲しくなくて。
オレは黙っていた。
――今日も、その恋人が待ってるの?
カカシ先生の帰りを。
戻って、キスするの?
そのまま、抱き締めて。
一緒にご飯食べて。
お風呂、入って。
一緒のベッドで――……。
日常的な事。
みんなしている事。
けれど、好きな人と一緒だったら。
それはいつもと変わった事になる。
それがやがて、当たり前の事になって行って――家族が出来上がる。
――羨ましいと、心から思った。
どれだけ願っても、オレには手に入らない。
カカシ先生とじゃなきゃ嫌なのに。
カカシ先生とが、良かったのに。
けれど、カカシ先生は……。
(……女の人なんて、嫌いだってばよ……)
苦しい。
胸が、痛くて。
――そんな八つ当たりをした処で、カカシ先生の恋人になれるはずがないのに。
『……寒くない?』
『っ!!』
カカシ先生が身体をずらすと、オレの隣へと腰掛けた。
そして、そのままオレの肩を抱いて、自分の方へと引き寄せる。
先生に触られるたびに、息が止まりそうになるのに。
その腕は。
その胸は。
驚くほど温かくて。
離れたくなくなる。
『理由、聞いてもいい?』
『……』
オレは、震える身体のまま、首を横に振った。
――絶対に、言えない。
言うつもりも、無い。
『……そっか』
そのまま、カカシ先生は黙っていた。
先生の体温が伝わってきて。
(……先生の……匂い……)
下腹の辺りが、切なくうずく。
この匂いに、毎日包まれる事が出来る人が、世界にたった一人だけ、居る。
そんな、幸せな人が。
(……それは、オレじゃ……ない)
『――俺ね、こういうの苦手なのよね』
どきっとした。
オレの考えてる事がばれちゃったのかって。
けれど、カカシ先生の声からは苦笑の響きしか無くて。
『一楽でも行こうか』
カカシ先生の声は、優しかった。
優しくて――……。
また、涙が出た。
→
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2007.3.30.