牡丹

□片恋(3/28〜)
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「――だからさ、アンタでも役に立つでしょって言ってんの」
「……別に、いいけど……」

任務も終わり、日の暮れた演習場。
わざわざオレを探しに来たらしい姉ちゃんは、身体のラインの出る薄いワンピースに、少しだけ寒そうに肩を竦めていた。

「うまく行ったら、デートくらいしてやるわよ」
「……別に……、いいってばよ」

香水と化粧の匂いが混じり、気分が悪かった。
音の立ちそうな睫毛を何度か揺らして、その姉ちゃんは眉をしかめる。

「相変わらず、暗いのね、アンタ」
「……もう、行ってもいいってば?」



いつからだろう。
オレに言えば、カカシ先生とデート出来る。
そんな噂がたった。



――最初は、ちょっと頼まれ事をしただけだったのに。



『一度でいいの。あのはたけカカシと食事をしてみたい』

そんな事を頼まれた。
カカシ先生がよく行く飲み屋街で働いてる、ちょっと痩せた姉ちゃんだった。



****




綱手のばあちゃんに頼まれた届け物をカカシ先生に持って行ったのが最初だった。

教えられた場所。

すぐ隣の通りはホテル街で、どこか淫猥な空気の漂う通りだった。

タバコの匂いと。
アルコールの匂いと。

――そして、混ざった香水の匂い。

気分が悪くなりそうだった。

ざわざわとした声が、オレが通るとくすくすとした笑い声に変わる。
教えられた店、ボックス席の、一番奥。
そこだけ、造りが違っていた。
上等の席なんだって、初めて来たけれど、そう思った。
そして、きっとカカシ先生もそこに居るって。

――オレの予想は、的中した。

『……届け物だってばよ』

カカシ先生は、背凭れにゆったりと身体を預けて、どこか億劫そうに視線だけでオレを見上げた。
カカシ先生の腕に手を絡めて、両脇に座った姉ちゃんが楽しそうにオレを見る。

――上目遣いの、まるで品定めでもするような、嫌な笑みだった。

『先生……』

カカシ先生はちらりとオレを見ただけで、再びソファーへと身体を沈めて目を閉じる。

『……ありがとう。お前も何か飲む?ソフトドリンク……』
『……帰るってばよ』
『――そ……』

背後で、その包みは何だと、姉ちゃん達がカカシ先生に聞いていた。
こんな処へ届けるくらいだ。
任務の一環では無いと分かる。
けれど、あの綱手のばあちゃん――火影様からの届け物だ。
皆興味津々なのだろう。

『……別に。たいしたものじゃ無いよ』

面倒そうな、カカシ先生の声が聞こえた。

『こんなもの、どうだっていい。問題は……』
『じゃあ私に頂戴よ』
『……ん〜、それはダメ。一応ね』
『一応?』
『そ、一応』
『一応って……んっ……あんっ、もう、カカシさん、誤魔化さないで……っ』

――背後で、姉ちゃんの弾んだ楽しそうな声が聞こえて、オレは逃げるようにその場を去った。



店の外は肌寒くて。

何だか居たたまれなくなって空を見上げた時だった。

『ね、アンタ、カカシさんの部下でしょ?』

声の方を振り返ると、痩せた姉ちゃんが立っていた。

『頼みが、あるんだけど』

ばっちり化粧をした、キレイな――けれど、夜の仕事なんだって分かる、女の人だった。










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2007.3.28.
*タイトルのままのお話…の予定です。あまり捻ったりはしないようししようと…。
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