牡丹

□片恋(3/28〜)
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『一度でいいの。あのはたけカカシと食事をしてみたい』

姉ちゃんは、断られるはずが無いって言う顔をしていた。

店に来るカカシ先生の事が好きになったって。
だから、一度だけで良いからって。

(――何で、オレに頼むの)

オレなんて、カカシ先生の部下の一人でしかない。
一緒に組んでるけど。
同じチームだけど。

プライベートじゃあんまり接触が無い。

(……何かあった時だけ……)

直ぐには治癒しきれない怪我とか。
大怪我した時、治る最中の熱とか。

(――泣いてる、時とか……?)

身体に何かあった時。
それは短い時間だ。
ただ不自由が無いように、カカシ先生から付き添われる。

それだけ。

(……泣いてる時は……)

――いや、泣いていた時は、一度だけだけど。



一度だけ、先生の前で泣いた日。






カカシ先生に恋人が出来た。

その時、だ。






サクラちゃんとイノが大騒ぎしてて。

カカシ先生の部屋から女の人が出て来たって。
カカシ先生、見送る時にその人にキスしてたって。

『もう結婚とか?!』

その言葉に、胸の奥で何かか弾けた。



――苦しくて。

苦しくて。

苦しくて。



ただ、本当に、苦しくて。



立って居られなかった。



幸い任務は済んでいて。
そこは森の入り口で。
オレはサクラちゃん達に背を向けていて。
身体を隠す、木も近くに立っていて。

だから――。

皆から見えないように姿を隠した。

『あれ、ナルトは?』

そんな声が聞こえたけれど。

『もう帰ったんじゃない?』

出てなんて行けなかった。



心のどこかで感じながらも。
ずっと隠して押し殺していた想い。



言えなかった。



言うつもりも無かった。



――そして、この先も、絶対に口にしない……。






オレ、カカシ先生の事が好きだ。






きっと、サクラちゃんがサスケを好きなように。
オレがかつて、サクラちゃんを追いかけたように。



――あの時、自分の中でさっさと否定して忘れてしまえば良かったのに。

ううん、あの時、ずっと一人だったならば、今もこんなに考える事は無かったのに……。






『一度でいいの。あのはたけカカシと食事をしてみたい』




(――何で、オレに頼むの)











――――
2007.3.29.
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