牡丹

□片恋(3/28〜)
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涙が止まるまで。

カカシ先生は、じっとオレの隣に居た。

優しく髪を撫でて。
優しく肩を抱いて。



――ねぇ、先生。

先生は、皆にこういう事するの?

それは、オレが特別だからじゃ無いってばよね。
……部下だから?



これが、彼女さんだったら……。

先生はどんな事をするのだろう?
どんな言葉をかけるのだろう?
きっと、朝まで一緒に居るのだろう。



もしオレが朝まで泣き続けたら。

先生は朝まで一緒に居てくれる?



――そんな事、出来ないけれど……。



だから、しばらくして顔を上げた。

『……寒くない?』

見計らったように、カカシ先生が聞いてくる。

(……ああ……)

カカシ先生は早く帰りたいはずなのに。
待っていてくれたんだって。

嬉しいのに。

その、言葉のタイミングが、帰るきっかけを待ち構えてたみたいで……。

『おなか空いてない?』
『ううん……』
『まだ開いてる店――』

オレは首を横に振った。

『……いいってば。先生、早く帰らなくていいの』
『ナルト……』

顔を上げずにオレは唇の端を上げる。

『待ってる人、居るってばよ』

棘のある言葉。
けれど、その棘は、オレしか攻撃しない。

『ああ……』

カカシ先生は、どこか照れたような声を出した。

『お前までそんな事言うの……参ったね……』
『!』

自分で言った事なのに。

自分で傷ついた。

否定ではない。
肯定の上での、カカシ先生の苦笑だったから。

――それは、否定して欲しくて言った言葉だったから。

『……先生、今、幸せ?』
『ん、何、急に……ああ、話、続きね』

焦った先生の声は、妙に嬉しそうで。

『ま、それなりには』

沈んだオレには、とても不愉快で。

『――オレ、幸せじゃない』
『ナルト?』
『……むかつく、てばよ……』
『……ナルト……』

先生が息を飲んだ。
オレの頬を滑り落ちる涙。



オレは先生を睨み付ける。



完全な八つ当たりだと分かっているのに。

けれど――……。



『羨ましいってばよ』



たっぷりの、嫌味だった。

『遅刻して。任務の時も本読んで。いい加減な事しててもそんなとこだけはちゃんとするんだってばね。オレってば、そんなに器用じゃないから羨ましいってばよ』



カカシ先生の顔色が変わる。



しまったと思ってももう遅い。






――こんなに可愛くない自分を見たのは初めてだった。










――――
2007.3.31.
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