牡丹
□片恋(3/28〜)
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『……そんな風に、思ってたの……』
どれくらいたってからだろう。
ぽつりと、先生がそう言った。
『そっか……』
『……』
くしゃくしゃと頭をかいて、カカシ先生は困ったように笑っていた。
『……そう、か……』
けれど、不意にその笑みを消すと、オレを見た。
『俺は何よりもお前達が大事だよ。大切な仲間で……』
『そんな言葉要らないってばよ!』
『……』
――オレは、何が言いたいのか分からなくなっていた。
苦しくて。
哀しくて。
胸が潰れてしまいそうで。
ただ、先生が好き。
ぼんやりとした憧れが、はっきりとした恋心だと分かって。
けれど、それは絶対に叶わない願いだから。
先生が好き。
そう、口にすら出せない想い。
『……じゃ、どんな言葉が欲しいの』
先生の声が変わった。
怒らせたんだって、よく分かった。
けれど。
謝っている余裕なんか、俺には無くて。
『言葉なんて要らないってばよ!どうせ口だけだってば!!先生ってば、彼女とへらへらして、幸せって、オレ、オレってば、こんな……オレがこんなに凹んでる時まで……!』
幸せかって、聞いたのは、オレの方なのに。
先生は、何も悪くないのに……。
『……分かった』
じっと聞いていた先生は、やがて、一度大きく息を吐いた。
ため息。
ずきりと、胸の奥が痛む
『女とは別れるよ。――お前が言うなら。お前達が一番大事だってお前が分かるまで、お前の望む通りにするよ』
『え……』
『――俺は忍びだ。その誇りは、俺の師から確かに受け継いでいる』
カカシ先生は、静かな目でオレを見ていた。
『口だけじゃないよ』
その目の奥には、隠されてはいるけれど、はっきりとした怒りが見て取れて。
『俺は、口だけじゃない』
繰り返したカカシ先生の口調は、強いものだった。
『俺にとって何が最も大切か、お前に教えてやるよ』
→
――――
2007.4.1.