牡丹
□片恋(3/28〜)
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『一度でいいの。あのはたけカカシと食事をしてみたい』
(――何で、オレに頼むの)
そう頼まれて。
どうしようか迷った。
――ううん、厳密には、どう断ろうか……。
オレの、わがまま。
支離滅裂の感情的な、一時的な言葉が、カカシ先生の行動を変えてしまったから。
『俺は、口だけじゃない』
――あの翌日、カカシ先生は本当に彼女と別れた。
彼女さん、めちゃくちゃ泣いてたって。
カカシ先生ってば、びっくりするくらい冷たくなったって。
誰から聞いたか忘れたけれど……。
『俺にとって何が最も大切か、お前に教えてやるよ』
一人の男である前に、里の忍びなのだと。
それをオレに教えてあげるって。
カカシ先生は、険しい目でそう言った。
刺さってしまうんじゃないかっていうくらい、強い眼差しだった。
ううん、実際に――……。
痛かった。
先生を怒らせて。
きっと、呆れているだろう。
けれど。
切ない甘さがそこにはあって……。
そんな事で喜んでいる自分に、また、嫌気がさして。
カカシ先生への、行き場の無い感情が、想いが、出口を探してぐるぐると渦巻く。
『どうにかならない?』
姉ちゃんは必死だった。
その姿が、自分の想いと交錯する――。
『……オレ、言うだけしか出来ないけど……』
――気が付けば、そう答えていた。
『本当に?!』
目の前の痩せた姉ちゃんは、希望がさしたかのように、顔が明るくなる。
夜の仕事だって思った。
化粧がばっちりで。
造られた睫毛が音をたてそうだって……。
なのに。
その瞬間の姉ちゃんの表情は、すごく嬉しそうで。
――キレイだった。
本当は、カカシ先生になんて会わせたくないのに。
カカシ先生に近付く女の人達なんて、皆居なくなればいいって思うのに。
でも。
『頼まれたから』
それが、カカシ先生へと会う理由になる。
あの日、カカシ先生を怒らせて以来、オレはカカシ先生とまともに喋っていない。
カカシ先生は、遅刻しなくなった。
あの本も、滅多に開かなくなった。
彼女が出来たという噂も聞かない。
ただ、行きつけの飲み屋で夜を明かす事が多くなったって。
以前の彼女の気配がする部屋に戻りたくないんじゃないかって、そんな噂も立った。
『……じゃ、伝えるってばよ。姉ちゃんの連絡先は?』
『ああ、あのねえ……!』
姉ちゃんが慌ててバッグを探る。
嬉しそうに。
頬を染めて。
(……化粧なんか、落とせばいいのに……)
女の人は、ずるい。
化粧してキレイになって。
でも。
男の人に気に入られるしぐさとか表情とか、きっと、生まれた時から持っている。
自然にしていても、ちゃんと男の人に選んで貰えるようになってるんだってばよ。
オレには無いモノ。
手に入れられないモノ……。
(……ずるいってばよ……)
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2007.4.2.