牡丹

□優しい声T
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♯1




「お疲れさま。今日の任務はこれでおしまいだよ」
「えっ、まだ明るいのに?」

うんと伸びをしてそう言ったカカシ先生に、オレとサクラちゃんは同時に顔を上げた。

今日の集合は朝早かったせいもあってか、(それでもカカシ先生は2時間遅刻したけど)まだアカデミー生も授業を受けてる時間だ。

「うん、このアト俺が用事あるからね」

カカシ先生はいつもの本を閉じて、さりげなく忍具のチェックをしている。

「報告書を出したらすぐに出発するから」
「えっ、だったらオレ、提出しとくってばよ?」

だからカカシ先生ってば今日、居眠りしてたんだ。
そんなに時間無いって知ってたら、オレ、もうちょっとマジメに頑張ったのに。
オレは、ちらりとカカシ先生を見る。
飄々としたいつもの目なのに、チェックをする目は鋭くて。
オレは、そんなカカシ先生の目が大好きだった。
ううん、それだけじゃなくて。

オレは、カカシ先生が好き。

任務中も、ダメだって分かってるけど、ついついカカシ先生ばっかり見てる。

『好きな人が近くにいたらいいわよね』

サクラちゃんの嫌味も、いつものこと。

『だってオレ、サクラちゃんに振られたし』
『あっ……当たり前でしょっ!』
『ひどっ。そんなに力いっぱい否定しなくても……』
『ほら〜っ、喋ってたら終わんないよ〜』

カカシ先生は突然現れるから、たまに聞かれてたらどうしよう、て思うんだけど。

『ほら、ナルトも、手、動かす!』

カカシ先生ってば、オレの気持ちに気付いてないみたいで。
気付いて欲しいような、気付かないで欲しいような……。



カカシ先生は、全身のチェックを終えたのか、オレ達の方を見た。

「報告書?いいよ。どーせ火影様に一言言って出かけなきゃなんないし。ついでに出していくから。二人とも真直ぐ帰りなさいね」

そう言うと、手を上げてカカシ先生は姿を消した。

「相変わらず、帰る時だけは早いわね、あんたの想い人は」

呆れたようにサクラちゃんが溜息を吐く。
確かに、オレはもうちょっとカカシ先生を見ときたいっていつも思うけど。

「上忍は忙しいんだってばよ」
「そうよね〜。だって明日もまた朝から私達と任務でしょ」
「遅刻もしたくなるってばよ」

サクラちゃんと顔を見合わせて笑う。



好きな人が、居る。

絶対に口には出来ないけれど。

傍にいられればいいんだ。

その温もりを感じられる距離。

それが、オレの精一杯の、幸せ。




それだけで、いいんだ――。











――――
2006.10.4
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