□衝動(1/31〜完結)
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「先生?」
「何―?」
「眠い?」

眠いわけでは無かったが、ナルトの両手の冷たさが気持ちよく、目を閉じていた。

「……何時?」
「もうすぐ日付変わる」
「……ん、寝ようか……」
「えーっ、まだー!」

途端にナルトがぎゅっと頬を押した。

「……っ痛た……ナルト!」
「まだだってばよ!」

目を開けると、いじけた様な顔でナルトが見上げていた。
隣で触れ合った体温。
覗いた襟元から、鎖骨が見えている。

白い、首だった。

「まだ、まだだってばよ……!」

何をそんなに必死になっているのか。

「だって、オレ、誰かと居た事無いってばよ。夜更かしとか、その……」

唇を尖らせて、ナルトが視線を逸らす。
言って、自分で寂しくなったのか。

「……や、やっぱり……何でも無いってばよ。寝るってば!」

ぎこちなく笑う姿。
逸らされた瞳の奥に、孤独の寂しさが見えた。



お呼ばれはイルカ先生以来だと、笑っていた。






――守ってやりたいと。

その時確かに思ったのに――……。



その時は――。







「……ね、ナルト。作ってくれる?」

グラスは空になっていた。
それを指差すと、ナルトは見る間に満面の笑みを浮かべる。

「氷は冷蔵庫。ロックアイスが入ってるから、それ、2個くらい入れて。それから、そっちの緑のボトルのを、グラス半分くらい。……あ、軽く混ぜてね。混ぜるのはあれね」
「分かったってばよ!」

喜んで、立ち上がるナルト。
グラスを持ってダイニングへと入って行く。



その後姿を見送って、ふと、引き戻したい衝動に駆られた。



やがて、カラカラと音がして、ナルトが戻って来た。
大切そうに両手でグラスを抱えているその姿に、思わず笑みが毀れる。



――誰かにこんな事をさせたのは初めてだった。



『作ってあげるから』と、下心丸出しの笑みで言われるのが嫌いだったような気がする。

もう、昔の事で覚えては居なかったが。



「どうぞ、てばよ」

どうやって渡そうか考えたらしく、少しだけの躊躇の後に、ナルトは俺の前へとグラスをちょんと置いた。
それから、少し俺から離れて座る。

「ありがとう」

何かつまみはあったかと考えていると、ナルトが俺の袖を引っ張った。

「飲まない、てば?」
「……」

うずうずとした様子で俺を見ていた。
大きな青い目が、期待と不安の目で、俺を見ている。

知らずに微笑が毀れ、俺はナルトの頭を撫でるとグラスを手にした。

「ど……だってば?」
「……ん、美味しいよ。上手だね、ナルト」
「!」



その瞬間、ナルトは嬉しそうな顔を――本当に、心から嬉しそうな表情を、した。





――――
2007.2.4.
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