□衝動(1/31〜完結)
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「良かったってばよ。オレ、味見出来ないから」

「美味しいよ。ナルト、ありがとう」

――ありがとう。

自然に口をついて出た言葉に驚く。
それに何かを思ったが、不快では無く特に深くは考えなかった。

それよりも、目の前の少年の相手をする方が楽しいように思われた。

「あのさ、あのさ、先生」

「ん?」

どこか浮き浮きとした様子で、ナルトが俺を見上げてくる。

「オレ、お酒飲めるようになったらさ、一緒飲んでいい?」

どこか伺うような眼差しに、思わず目を見開いた。
それから、自然と笑みが漏れる。

「……いいよ。その時は……とっておきの酒、開けようか」



――いつか。



この少年も無邪気な笑みを消し、落ち着いた、大人の笑みをするようになるのだろうか。

(……想像、出来ないね)

ずっとこのままで居て欲しい。

永遠に、少年のままで笑っていて欲しい。

この腕に、おさまるその姿のまま、時間を止めて欲しい……。

「あのさ、あのさ、じゃあ、何か食べるってば?」

返事に気を良くしたのか、ナルトが立ち上がる。

「オレ、何か作るってばよ!」

腕まくりをするナルトに、オレは苦笑を漏らした。



『美味しいよ。ナルト、ありがとう』

――本来なら、絶対にこんなリップサービスなどしないのに。



高々氷と酒の比率の問題だ。
それが好みに合っているかどうかの問題だろう。
少々の変わりがあっても、家庭で飲むのにそこまで味が変わるものではない。
そこまで上等の酒でも無かった。
酒を飲みはするが、とりたてて美味い等とは思わないのに。

普段もそこまで食べはしない。
ただ今日は、少しばかりいつもより酒の量が多かった。
何か胃に入れた方がいいだろう。

「……冷蔵庫、何か入ってたかな……」

「オレ、見て来るってばよ!」

「じゃ、何か適当に持ってきてくれる?」

「はっ、りょぉかいであります!」

何がそんなに嬉しいのか。
ナルトはぱたぱたと駆けて行く。



ダイニングに再び明かりが点いて、俺はそれをぼんやりと眺めていた。

人が居る。
他人が。
しかも、これまでの相手とは違う。
子供――いや、少年、と言った方がしっくり来るだろうか。

誰かが自分のテリトリー内に居るなど、いつもは面倒に感じて仕方が無かったのに。



ちらちらと金色の髪が垣間見えて、俺は先刻からずっと笑っている事に気がついた。
何がこんなに楽しいのか。
はしゃぐナルトの気が移ったのか。

「先生、塩と砂糖は〜?」

「……目の前に無い?あ、棚の前の……」

立ち上がろうとすると、慌てたようにキッチンからナルトが顔を出した。

「ダメダメ、先生は動かないで。オレが作ってあげるんだってばよ!」

どこから見つけたのか。
青いエプロンをしている。

「……それ……」

「勝手に借りたってばよ?先生は待ってろってばよ」

言って、再びナルトは顔を引っ込めた。

(……あのエプロンは……)

いつだったか。
俺に似合う色だと誰かが買って来たものだ。
一緒に料理をするのが夢だと語っていた。

――もう、顔も覚えていない相手だが。

ふと、あんなエプロン捨てていれば良かったと思った。



あのエプロンは、ナルトには似合わない。






――――
2007.2.5.
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