藍
□純恋(6/8〜純恋 2へ)
2ページ/32ページ
「先生……オレ、先生のこと……好き、だってば」
オレは、震える唇を、やっと開いた。
カカシ先生が、きつく眉根を寄せて目を閉じる。
それは、絶望にも近い表情だった。
純恋
〜星のうた〜
****
星の瞬きが、音となって降ってくるようだった。
「静かだってばよ……」
里を一望できるその丘は、オレの気に入りの場所だった。
日が暮れ始めると、それぞれの家に明かりが灯り始める。その明かりから賑やかな声さえ聞こえてきそうなのに、この丘はひどく静かだった。
人の気配を感じながら、一人になれる場所。
一人だけど、決して一人じゃないと感じられる場所。
それが、オレには心地よかった。気付けは一人、ここから里を見下ろしていることも多かった。
それが、一人ではなくなったのはいつからだろう。
『ナ〜ルト』
ある夜、不意の目隠しに仰天した声を上げて振り返れば、気配も無くカカシ先生が立っていた。
いつもの本を持って。
いつもの格好で。
『どうしたの』
いつもの笑みを浮かべていた。
『いいねぇ、ここ……』
それから。
一人で丘へと来ても、いつの間にかカカシ先生が傍に来ていて。何を話すでもなく、ただ二人でぼんやりと里を見下ろしていることが多くなった。
約束なんてしていないけれど、そこには二人でいることが当然のような、暗黙の了解のような空気があって。
『遅かったってばよ』
そうオレが口を尖らせると、
『ゴメンゴメン、報告に戸惑っちゃってねぇ』
カカシ先生が優しくオレの頭を撫でた。
時にどちらからともなく話をすることもあったけれど。
不意に、指先が触れることもあったけれど。
沈黙が心地良かった。
肩が触れるか触れないかの、体温の感じられるぎりぎりの距離。
いつしか。
オレはその、カカシ先生の体温を心地よく感じるようになっていた。
それから。
オレはカカシ先生に、もっと近付きたいと望むようになった。
カカシ先生に肩が触れることが出来るならば、と。
カカシ先生と手を繋ぐことが出来るならば、と。
けれど。
これ以上近付いてはいけない。
そう胸の奥で警鐘が鳴るのも感じていた。
これ以上近くなれば、想いが大きくなってしまう。
傍に居るだけじゃ足りなくなってしまう。
それは、確かな予感だった。
確実に、起こり得る未来だった。
想いが押さえられなくなった時、自分がどのような行動に出るかなんて、簡単に想像できる。
その時、カカシ先生がどんな答えを出すかは分からないけれど。
この温かな時間を壊したくはなかった。
だから、絶対に口にはすまいと、そう心に決めていた。
カカシ先生は相変わらずの様子で、丘へとやってきて。
忍務の時以外は全てここへ来ているのではないかと、そう思えるほどに。
オレが聞いた限りの中で、知っている限りの中で、カカシ先生の忍務の話を耳にする以外の時、カカシ先生はオレと一緒に過ごしているのではないかと、そう思った。
忍務以外の全ての時間を、カカシ先生はここに来るのに使っているんじゃないかと思った。
それはとても嬉しいことだったけれど。
だから、カカシ先生の来ない夜は寂しかった。
→
次へ
←
前へ
[
戻る
]
[
TOPへ
]
[
しおり
]
カスタマイズ
©フォレストページ