□純恋(6/8〜純恋 2へ)
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「先生……オレ、先生のこと……好き、だってば」

 オレは、震える唇を、やっと開いた。

 カカシ先生が、きつく眉根を寄せて目を閉じる。

 それは、絶望にも近い表情だった。





純恋
〜星のうた〜





****




星の瞬きが、音となって降ってくるようだった。

「静かだってばよ……」

里を一望できるその丘は、オレの気に入りの場所だった。

日が暮れ始めると、それぞれの家に明かりが灯り始める。その明かりから賑やかな声さえ聞こえてきそうなのに、この丘はひどく静かだった。

人の気配を感じながら、一人になれる場所。

一人だけど、決して一人じゃないと感じられる場所。

それが、オレには心地よかった。気付けは一人、ここから里を見下ろしていることも多かった。

それが、一人ではなくなったのはいつからだろう。

『ナ〜ルト』

ある夜、不意の目隠しに仰天した声を上げて振り返れば、気配も無くカカシ先生が立っていた。

いつもの本を持って。

いつもの格好で。

『どうしたの』

いつもの笑みを浮かべていた。

『いいねぇ、ここ……』

それから。

一人で丘へと来ても、いつの間にかカカシ先生が傍に来ていて。何を話すでもなく、ただ二人でぼんやりと里を見下ろしていることが多くなった。

約束なんてしていないけれど、そこには二人でいることが当然のような、暗黙の了解のような空気があって。

『遅かったってばよ』

そうオレが口を尖らせると、

『ゴメンゴメン、報告に戸惑っちゃってねぇ』

カカシ先生が優しくオレの頭を撫でた。

時にどちらからともなく話をすることもあったけれど。

不意に、指先が触れることもあったけれど。

沈黙が心地良かった。

肩が触れるか触れないかの、体温の感じられるぎりぎりの距離。

いつしか。

オレはその、カカシ先生の体温を心地よく感じるようになっていた。

それから。

オレはカカシ先生に、もっと近付きたいと望むようになった。

カカシ先生に肩が触れることが出来るならば、と。

カカシ先生と手を繋ぐことが出来るならば、と。

けれど。

これ以上近付いてはいけない。

そう胸の奥で警鐘が鳴るのも感じていた。

これ以上近くなれば、想いが大きくなってしまう。

傍に居るだけじゃ足りなくなってしまう。

それは、確かな予感だった。

確実に、起こり得る未来だった。

想いが押さえられなくなった時、自分がどのような行動に出るかなんて、簡単に想像できる。

その時、カカシ先生がどんな答えを出すかは分からないけれど。

この温かな時間を壊したくはなかった。

だから、絶対に口にはすまいと、そう心に決めていた。

カカシ先生は相変わらずの様子で、丘へとやってきて。

忍務の時以外は全てここへ来ているのではないかと、そう思えるほどに。

オレが聞いた限りの中で、知っている限りの中で、カカシ先生の忍務の話を耳にする以外の時、カカシ先生はオレと一緒に過ごしているのではないかと、そう思った。

忍務以外の全ての時間を、カカシ先生はここに来るのに使っているんじゃないかと思った。

それはとても嬉しいことだったけれど。

だから、カカシ先生の来ない夜は寂しかった。
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