□純愛(6/14〜完結)
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「先生……オレ、先生のこと……好き、だってば」

震えながら、ナルトがそう言った。

襲った目眩を耐えるために、俺はきつく目を閉じる。

絶望が、俺を襲った。






純愛
〜月のなみだ〜





****





『また、女泣かしたんだって?』


朝からアスマがにやにやと不快な笑みを向けてくる。

『今度はどの女だ? この里にあと誰が残ってたっけ』

昨夜の出来事だ。もう噂になっているのか。

(まぁ、見られていることは知っていたけど)

最初に声をかけられた時は良い相手だと思った。

しかし嫉妬がひどく、最近は哀しそうな顔ばかりしていた。

だから別れた。

『死んでやる!』

もう何度聞いた言葉だろう。

そう言えば俺が考えを変えると思っているのか。

相手がどうでも良いわけではない。大切にしているつもりだった。

噂はどうか知らないが、誰かの相手をしている時は、他の相手を見ないくらいの礼儀は持っている。

女に気を失わせて彼女の部屋へと運んで、こんな(気を失わせるような)術ばかりが鍛えられていると苦笑した。

『お前に本命ができたら大変だな』

アスマが肩をすくめる。

『他国の忍びだけでなく、里の女にまで狙われるのか。〈くのいち〉じゃないとお前の本命は務まらねぇな』

『ふーん……』

恋人を弱点にするほど抜けていない。

だが、忍務以外に気をとられるのはプラスとは言えない。

『本命なんてつくらないよ』

笑って答えるが、次の瞬間のアスマの言葉に内心どきりとした。


『本命が分からないだけだろ』


いつもの調子で茶化すように言われて。

『面倒臭いでしょ』

そう返したが、本当は図星だった。

それに気付いているのか。アスマがにやりと笑う。


『本気の恋をしてこなかったお前が悪い』


恋とか、愛とか。忍びには必要ない。

それが、俺の誇れる強さだった。

だが、そんな話をされる度に浮かぶ顔があって俺を戸惑わせる。

それは、これまで俺の生きてきた中で、ほとんど初めてと言っていい感情だった。



帰り道、又は女に誘われた帰りに通る練習場の前。そこでいつも見かける姿があった。

うずまきナルト。

夜遅くまで姿を見るのに、同じ時間まで起きている俺に比べては早起きだと思う。

その姿を見かけなくなったのはいつからだったか。

一度用事があって家へと行ったが、そこにも居なかった。


毎日どこへ行くか気になった。

単純にそれだけだった。

忍務が終わって、こっそりとナルトの後をつけることにしたのは、単なる気まぐれだった。

しかし、これまでのどんな忍務よりも心躍っていた。



辿り着いたのは、丘の上。星と、眼下に広がる里。

何が面白いのだ、と思った。

しかし不意に。


きれい、と、小さく呟く声が風に乗って流れてきて。


胸を鷲掴みにされると感じた。

こんな子供に。

何かを唄い始めたナルトに、俺は魅入られたように視線が外せなかった。

それから毎日、ナルトは丘へと上った。

それにつられるように、俺の足も丘へと向かった。





――――
2006.6.14
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