□不器用なキス
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先生の様子がおかしい。
そう気付いたのは、少し前。






不器用なキス






『野菜も食え』
突然、その声と共にカカシ先生が現れたのはいつだっただろう。
もう随分前の事だったように思う。
窓から生えるみたいに先生が立っていて、オレは驚いて持っていたラーメンを零しそうになったんだってば。
『邪魔するよ』
ゆらりと部屋の中へと入って来たカカシ先生に、オレは、先生が何でオレの家を知っているのかって、そんな事を考えていた。



その翌日から、先生は度々オレの家に来るようになったんだってばよ。



いつだったか。
何だか凹んだ事のあった日だった。
理由ははっきりとは覚えていないけれど、手足を動かすのさえ億劫で。
やっとの思いで一人で部屋に戻って。
ご飯なんて食べる気も無くて。
泣きすぎて腫れてしまった目が痛くて熱くて。
電気もつけずにひとり部屋でぼんやりとしていた。
誰とも会いたくなくて。
昔から、そんな事はよくあった。
理由は様々だったけれど。
オレってば、人より寂しさには慣れているって思う。
でも、たまに、どうしようもなく寂しくなる時があって。
そんな時は、何があっても哀しくなってしまう。
色々な嫌な事が浮かんできて。
昔の事とかも思い出すから。
一人で居たかった。
けれど、寂しくて。
矛盾した気持ちだけど、誰かに居て欲しくもあった。



以前、カカシ先生が家に来た時の事だった。
『ほら、お前も食わない?』
『……ありがと……って、オレの家だってばよ!これもオレの夕食!』
『まあまあ、カタイ事言わないで』
『何勝手に寛いでるんだってば!』



ふと、突然入ってきたカカシ先生がオレの夕食を奪ってそう言った時の事を思い出して、オレはくすりと笑った。

あんなにも心は沈んでいた。

けれど、カカシ先生なら、会ってもいいって。

いや、会いたかったのだろう。

涙を拭いて、ふと窓を見上げた時だった。

『電気くらい点けなさいよ』
カカシ先生が例によって突然現れた。
窓を開けて入ってくる。
そう言えば、いつから窓に鍵を掛けなくなったのだろう。
その日も、窓に鍵を掛ける事をしてはいなかった。
『ご飯は?』
カカシ先生が部屋の電気を点けて。
オレは眩しくて何度も瞬きをした。
電気のスイッチの位置にカカシ先生が立って、オレを見ていた。
その時、オレはきっと誰かに甘えたかったんだと思う。
そしてそれは、カカシ先生がいいって思っていたんだ。

理由なんて特に無い。

ただ、哀しくて。

寂しくて。

その日は本当にどうしようも無かったから。

その時、カカシ先生がその時のオレの世界の中で一番近くに居たから。
いつだって、一緒に笑ってくれていたから。

ただ、それだけの理由だった。

だから、一緒に居てくれる相手に、カカシ先生を考えただけだった……のだと思う。



『先生がご飯作って』




オレは、じっと、カカシ先生を見上げた。
縋るような目を、していたかもしれない。









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2006.8.14
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