□赤い月
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赤く丸い月が照らしていた。
他に星も出ておらず、風はおろか、大気の流れさえ感じられない。それは奇妙な夜だった。

欲しかった。
ただ、それだけだった。
『何で……』

拒絶の目が俺をなじって。
その目を征服する錯覚。暗い倒錯に、自分がこの夜の覇者になったような気がした。
『……助けて、てばよ……』

何か、否定の言葉が聞こえたような気がしたけれど。
しかし、この双つの耳はそれを受け入れようとはしないのか、その意味を理解することは出来なかった。
『苦し……』

卑猥な水音。
ぐちゅぐちゅと脳髄を犯す狂気に、目の前が赤く染まってゆく。
自分が自分でなくなってゆく感覚。
ただ、目の前のものが欲しかった。


何故心ごと、身体ごと、溶け合ってしまえぬのか、不思議で。


問いかける眼差しも、暗い空へと消えていった。



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