頂き物・リクエスト2

□Stay hugged.
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ナルトが失恋した。



その事実を知っているのは、ナルトの他、3名である。

ナルトを探して、偶然現場を目撃した、奈良シカマル。
それから、担任ではないが、目をかけなければならない立場にある、はたけカカシ。
そして、当事者であるうちはサスケの3人だ。

『……今は……忙しい。悪いが……』

いつもの調子でそう、低く呟くように言ったサスケに、ナルトは分かっていたというように笑顔を見せた。

『ゴメンってば』
『いや……』

表情一つ変えないサスケに、ナルトはそそくさとその場を後にした。
その頬には赤味がさし、濡れていた事は、カカシだけが知っている。



カカシが現場を目撃したのは、シカマルに比べれば、完全な偶然とは言えない。

普段より落ち着きのない生徒が、いつも以上に授業中は上の空で、特定の生徒ばかりを見ていたのだ。
ただでさえ成績は最低ラインなのに。
教師として、呆れと共に興味が湧いたとして、不思議はあるまい。

まして――。



『悪いけどね、カカシ君、ナルトをお願いするね』



遺言がそれなんて、あの人にしては悪い冗談だと、今でも思う。
ナルトには、何も知らされてはいないが。
いつか伝える日が来るのだろうか。



今、ナルトは、遠い親戚にあたる綱手という女性の家にやっかいになっている。
年齢不詳にもほどがある女性だ。
たいていの女は、笑わせれば目尻で年齢を当てられるものだが……。
この高校の理事長である自来也と対等な口をきいている。
加えて、ナルトは彼女のことを「ばあちゃん」と呼ぶ。
しかし、彼女の外見は二十歳そこそこだ。

『だって、ばあちゃんの化粧は人間業じゃ無いってばよ』

ナルトが何か恐ろしいものでも口にするように言っていたのを笑った事を覚えている。
若い頃は、カリスマメイクアップアーティストとして活躍していたが、理由も告げず、突然引退してしまった。



――その理由も、カカシは知ってはいる。



しかし、今更蒸し返すような事ではあるまい。



『悪いけどね、カカシ君、ナルトをお願いするね』



あの言葉と共に、綱手の心にもまた、カカシと同じように深い傷が残っているはずなのだから――。



――普段は飛び抜けて明るいナルトが、サスケに断られた翌日は目に見えて静かであった。

担任教師のうみのイルカがそれ以上に狼狽えており、隣の席の不知火ゲンマから、お前は落ち着けと呆れられていた程だ。

カカシとて、気がかりではある。
しかし、翌日から態度が変わったのはナルトばかりではない。
生徒会役員、生徒会長である奈良シカマルがやたらとナルトを気に掛けるようになった。
クラス役員も兼任している理由もあるのかもしれないが――カカシには面白くない。



赤ん坊であったナルトの成長を見守る立場であったカカシが、その役目に違和を感じ始めたのは、つい最近の事だ。
まさか、自分が勤務する高校を受験するとナルトが言い出すなど思いもしなかった。



『だから、家庭教師、してってば』



綱手に内緒で、カカシのアパートを訪ねて来た。

あの頃は、まだ意識などしていなかったのに。
やんちゃな、弟分のようなものとしか思っていなかった。



――それなのに……。



二人きりになる事がこんなにも緊張を呼ぶのだとカカシが教えられたのは、もう、受験まで10日を切った頃ではなかったか。








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2008.8.17.
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