牡丹

□抱きしめたい光
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「……あなたの心が分からないわ」

その人の声は、低いはずだった。
けれど、通りの端に居たオレの耳にまで届いた。

「それは、別れるって事?」
「……」

カカシ先生の声も静かだった。

カカシ先生と女の人。
路地に入った所で、話をしている。

そこを通りがかったのは偶然じゃない。
何となく、今日が『その日』のような気がしたのだ。

カカシ先生が、恋人と別れる日。

「……そうね、そうとって貰ってかまわないわ」

しばらくして、女の人はそう言った。

「そう、か……」

溜め息と共に、カカシ先生はそう答える。

「……それじゃあ」

女の人はそう言うと、通りへと出て来た。
オレの脇を通り過ぎる。

カカシ先生は動かなかった。
随分長い間、その場に立っていたけど。
やがて、よろめくように壁へと背を付けた。
そのまま、顔を片手で覆って俯く。
打ちひしがれたその姿。



もう、何度も聞いていた。

カカシ先生が、恋人から振られたって話を。



カカシ先生は恋人と長続きしない。
理由は分からないけれど。
何故か、皆カカシ先生から去っていく。
カカシ先生はすごくモテるけど。
恋の告白を受ける数と同じくらい、恋人と別れる回数も多かった。

どれくらいそうしていただろう。
通りの飲み屋ものれんを仕舞い始めた。



「いつまで、そうしてるんだってばよ」



声をかけると、カカシ先生が顔を上げた。

「帰ろう、先生」
「……ああ、うん。いたの、お前……」

別に気配を消していた訳では無い。
それだけ、カカシ先生の集中力がなくなっているんだろう。

「このままじゃ、夜が明けるってばよ」
「……うん、もう、帰るよ」

顔を上げたカカシ先生は、その雰囲気からはおよそ不自然な笑みを浮かべていた。

まるで、何も気にしていないという顔。

「いつかも、お前に恥ずかしい所を見られたね」
「……別に、恥ずかしい所じゃないだろ」

恋人に振られて。

動かなくなったカカシ先生に声をかけた。

声をかけたのはこれで2回目だけど。

何度もこんなことがあっているって、知ってる。

「送るから」
「いいよ。ちゃんと帰れる」

笑って、カカシ先生は姿を消した。














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2013.2.25.
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