頂き物・リクエスト2

□優しい声 ‐その後‐
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「どうしたの、考え事?」
「わっ」

急に声をかけられ、オレは顔を上げた。

どこまでも高い青空に、遠くを鳥が二羽飛んでいる。

そよぐ風が頬に心地よかった。

「お待たせ」
「早かった、てばね」
「急いだもん」

待ち合わせの大杉の下は、程よい日陰が出来ており、オレは陽の中に立っているカカシ先生を見て目を細める。



カカシ先生にオレの部屋の鍵を渡して一か月。
けれど、カカシ先生はその鍵を使ったことは無かった。
いつも外で待ち合わせだ。

まだ体調が元通りとはいかないらしく、任務復帰はしていない。
主に、筋トレとか、体力作りの基礎をやっているらしい。

今日はアカデミーの試験監督に呼ばれていて、午前中だけアカデミーに行っていた。

「何食べる?」

昼ごはんを一緒に食べようと約束していた。

ラーメン、と言いかけて、考える。
ラーメンって、割と早く食べ終わるってばよね……。
料理が出てくる時間も早い。

「先生は何食べたい?」

尋ねると、カカシ先生は少し考えて微笑んだ。

「たまには定食屋、付き合ってくれる?」
「いいってばよ」



昼ご飯を一緒に食べて、お互いの出来事を報告し合う。

何の変哲もない、デートとすら呼べない。

何の色気も無い。



けれど、それでも十分だった。



カカシ先生が生きている。

また、こうして、話ができる。

笑いあえる。



カカシ先生の姿が見れたと喜んではサクラちゃんに呆れられていた懐かしい日々。

『みんな好きだよ。もちろんお前も』

そう、笑ってもらえただけで、心臓が破裂しそうにドキドキしていた。

それが今は、確かな手の届くところで、カカシ先生が笑っている。
オレの所に戻ってくると言ってくれて、オレを、オレと同じ想いで見つめてくれている。

カカシ先生の声を聞けば満たされた気持ちになって。
そして、自分が確かにここに居ていいんだと、はっきりと感じる事ができる。



はたけカカシという人が、そこに居るだけで。

全てが充足したような錯覚を起こす。



幸せで。



けれど、怖い。



この人が、また、苦しむようなことがあったらと……。
このまま、任務になんて行かなければいいと思ってしまう。
危険な目に、遭わないで欲しいと願ってしまう。

忍びである以上、それは、忍びとして生きられない事を意味するのに。











――――
2013.5.20.
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