牡丹

□こころつむぎ
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温かな光の中、自分の身体がそこに包まれ、ふわりと浮かび上がるような気がした。



何も考えなくていい。

何も傷つかなくていい。

絶対的に守られているという安心感。



このまま意識を漂わせ、自我の岸辺へと戻れなくなったっていいと思う。

自分という存在がなくなり、大きなひとつの意志に統一されるような安堵感。



自分の名前は、何だった?
自分は何のために存在していた?



そもそも、自分に意思などあったのか……。



大きな世界の中で小さな自分は、ただの歯車の一つでしかないのではないか。

そんな考えすら、大きな世界の意思に誘導された、大きな意思の一部ではないか。



温かい。

優しい。

物質を超えた、世界。



出来る事ならば、このまま、目を閉じたまま、この場所で……。










****




目を開くと、白い天井が目に入った。

腕につながれたチューブ。
鈍い、固定された痛み。
吊るされたボトル。
点滴のようだ、と、鈍い頭で判断できる。

(これも、夢の続き……だってば……?)

温かい気持ちがまだ、オレを包んでいる。

重く動かない身体は、そもそも自分がそんなものを必要としていないからではないかとさえ思えてくる。
身体なんて、もとから持ってなんていなかったのではないかと。

しかし、動かした腕に痛みが走った。



(夢ではない……?)



「……う……っ」

身体を起こそうとするが、再び背中に痛みが走る。
どうやらケガをしているらしい。

(ここは、どこだってばよ……?)

どうやってケガをしたのか、何故、ここに寝ていたのか、何も思い出せない。

揺れる白いカーテンの向こうには、優しい光が差し込んでいた。
誰かが窓を開けたのだろう。

(誰が……)

頬を撫でるさやさやとした風。
点滴のボトルは、もうすぐ落ち切ってしまおうとしていた。
いったいどれくらいの間、ここに眠っていたのだろう。

再び、身体を起こす事にチャレンジしようとした時だった。



「!」



不意に、扉が開く。


















――――
2013.5.25.
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