頂き物・リクエスト2

□こころつむぎ-サイ-
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どうして。

君は僕を見ないんだろう。



いつか。

抱きしめて。

君は確かに抱きしめ返してきてくれていた。

何も言わず、キスに応えてくれたのに。



そんな記憶も、もう、ナルトの中には残っていない。

ナルトへ向けた、たくさんの言葉も。

触れた、指先も。

抱きしめた、体温さえ?



『いや……この指の感じを、知っているような気がして。……冷たい、指……』
『……』



戸惑ったように唇を震わせた君に、口づけたかった。

抱きしめて、強引にでも自分のものにしたかった。

それが、できなかったのは……。



(ナルトの為なんて、たてまえで。本当は、僕の臆病な心を隠したかったからだ)



カカシさんの背を追う君の気持ちなんて、疾うに気付いている。
その上で、強引に奪う事なんてできなくて。

尊い光。
温かな、きらめき。
強く抱きしめたら、きっと壊れてしまう。

せめて絵に描きとめたくて。
スケッチブックを取り出すと、ナルトが慌てたようにそれを取った。



(……そんなところまで、以前の通りなんだね)



泣きたくなるような、切ない気持ちが湧き上がる。



それを隠してスケッチブックを取り返そうとした時だった。

「危ないっ!」

ぐらりと体勢を崩したナルトを、慌てて抱きとめた。

「サイ……」
「病み上がりなんだから、変な体制取ると危ないよ」



すぐ目の前に、ナルトの顔があった。

蒼い瞳。

清浄な、真直ぐな目。



「って、な、どこ触って……」

口づけたい衝動を、必死に押さえた。

「さ、サイ……」
「……ごめん、ナルト」

けれど。
身体は反比例して熱くなっていく。

「ナルトの記憶が戻っていないのは分かっている。分かっているけど……僕は、自分を押さえられない」
「サイ……」

戸惑ったナルトの目。

拒むことをしないのは、以前からだね。
だから、僕が、つけあがるんだ。

それは、君の優しさなの?
それとも……。

「好きだよ、ナルト」
「あ……」

指先で、ナルトの唇をなぞる。

柔らかな、ふっくらとした唇。

ナルトは泣きそうな顔をしていた。

じっと、僕を見ている。

無垢な、赤ん坊のように、じっと僕を見つめていた。

それだけで、愛しさが増す。

「覚えてなくてもいい、僕を見て」

そのまま、口づけようとした。



その時だった。



「ナルト、すまない、忘れ物を……」






――カカシさん、今、あなたは何を思っていますか。



かごの中の鳥を、僕は逃がしたくはない。



自由に、したくはない。






ナルトを抱く腕に、力がこもった。



これが、愛している、ということだろうか……。



カカシさんに渡したくはないと思った。








だって、ナルトは――……。



















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2013.6.27.
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