頂き物・リクエスト2

□こころつむぎ-サイ-
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好きだとがむしゃらに言い続ける事しかできなかった。

優しく包み込んでやる方法なんて、これまでの僕の人生では、学ぶ機会なんて無かった。

冷え切った、氷のような世界を。

ナルトが溶かしていった。

それは雪解け水の様に。

僕の感情が溢れ出して。

ナルトが好きだと認識した頃には、ナルトから目が離せないまでになっていた。



好き。
とは、何だ?



傍に居たい。

触れたい。

抱きしめたい。



ナルトの笑顔の為には何だってしたいと思う。

けれど。

方法が分からない。



いつもナルトを見ていた。
そうしているうちに、気が付いた。
ナルトの気持ちがどこに向かっているか。

(誰を、想っているか)

記憶を無くしたと聞いて喜んだ。

暗い愉悦。

今度こそナルトを手に入れたいと思った。



思ったのに。



(方法が、分からないんだ……)



力を入れ過ぎて握りつぶしてしまいそうな不安定で不器用な心。

どうすれば君は手に入ったろだろう?

どうすれば、君は僕を見てくれたのだろう?



「そ、それは、その、遠慮しとくってばよ」

何かを言われ、ナルトが逃げ腰になっている。
そのすぐ後ろには、カカシさんが居た。

「説明するよりこれが早いかな」
「えっ……わっ」

そして。
僕は息を飲む。

カカシさんは、ナルトの頬にキスをした。

「んなっ!何すんだってばよっっ!」
「あ、僕の時と同じセリフ」

動揺した心を隠し、僕はいつもの様に笑う。
2人の寄り添う想いを、邪魔しないように。

(これが、僕に出来る精一杯)

だって、ナルトが嬉しそうだから。

幸せそうだから。

君が笑っているなら、それだけでいいと、自分を納得させるしかない。



それが例え、僕の力ではなくても。



「2人がどう思っているか知らないけれど、月並みだが、ナルトは俺が貰う。伝えるのが遅くなってゴメンね」
「えっ、ちょっと待つってばよ、何だってばよ、それ!急に!サイとホクミがそんな事思っているはずないじゃないかっ」

慌てるナルトが愛しい。

そして。



寂しい。



「僕、ずっと君を好きだと言っているけど?」



そうだ。

これが、僕の立ち位置だった。

ただ一縷の望みを持って。

君に伝え続けて来た。

周囲には冗談だと思われながら。

一方通行だと呆れられながら。



(それでも、心は、君を求めて叫び続けていた)



君が笑っていればいいなんて。

本当は。



嘘だ。



そんなのは建前でしかない。

強がりでしかない。

心は、君が好きだと叫び続けているのに。



「……うーん、実力行使」
「えっ、うわっ」

ナルトを抱えたまま、カカシさんは窓の桟に立つ。

「それじゃ、ホクミ、養生してね。サイ、後はよろしくね」

そうする事が当然の様に、カカシさんは言う。

そして僕もまた、それを受け入れている。

だって。



「サイっ、ありがとってばよっ!」



その、君の一言で報われた気になるから。

君を好きで良かったと思えるから。



君が好き。

そして。

君の笑顔が好き。



「お前、何でそんなに嬉しそうなんだ」

ホクミが言う。

「そっちこそ」
「ふ……」



君は、僕の初恋だったのだろうか。

初恋は実らないと言うらしいけれど。

次の恋は、うまくいくだろうか。



君以上に、好きになる事ができるだろうか。

君以上に、深く、想う事ができるだろうか。



その時は、もう少し上手に相手を包んでやりたい。



「さて、僕は帰るよ」
「そうか」
「また来るよ」
「ああ」

扉を閉めて。
立ち止まり、上を見上げる。

頬を伝う温かさに、笑みが零れた。
そのしずくをぬぐって。
振り切るように歩き出す。






君の記憶が戻って良かった。

君が笑っていて良かった。



君が幸せそうで、良かった。







そう思う事が、今の僕の精一杯。











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2013.8.16.
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