頂き物・リクエスト2
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火影執務室は、綱手のばあちゃんが居た頃から通い慣れたものではあった。
任務の度に、毎日の様に通った事もあった。
扉を開くと、そこに座っていた人が、オレが来るのが分かっていたように顔を上げた。
「今日は任務じゃなかったの」
「昨日からの泊りだったから、もう終わったってばよ」
「そう……」
カカシ先生は手を止める事無く、視線を手元の書類に戻した。
「あまり来ないように言ってあるでしょ。それでなくても、お前は噂になり易いんだから」
今日も顔を見に火影執務室に行けば、カカシ先生が苦笑しながら柔らかに苦言を呈する。
何故、カカシ先生が火影執務室に居るのか。
何も、五代目火影、綱手のばあちゃんが死んだ訳では無い。
『重要な人生の賭けに出てくる』
そんな謎の言葉……というか、意味不明の言葉を残し、ばあちゃんは突然、シズネの姉ちゃんと姿を消したのだ。
里の経営費を使い込んだらしい……というのは巷での噂で(さすがにそれは無いだろう)、実際は別に何か理由があるらしいが……。
とにかく、火影が居なくては話にならないと、急遽カカシ先生が火影代理としてその座におさまったのだ。
「オレが来なきゃ、カカシ先生ってば、この部屋から出ないじゃん。飯もここで食ってるし……」
「仕方ないでしょ。終わらないんだから」
そうは言っても、ばあちゃんはよく飲みに出かけていた。
同じ仕事量なら、カカシ先生だってもう少しゆっくりできるはずだ。
それを伝えると、カカシ先生は困ったように笑う。
「綱手様にはシズネさんが居たからね」
「じゃあ、オレが手伝うってばよ」
「お前はお前の仕事をしなさい」
テーブルを挟んで、火影執務室でカカシ先生と言い合うのは、いつもの事だ。
でも、いくらオレが腹を立てたって、カカシ先生はいつもゆったりと笑っていて。
困ったように、でも優しくオレを見るから、オレばかりがごねているみたいで、それ以上を言えなくなってしまう。
分かっている。
オレだって、そうそうカカシ先生に会いに来ちゃいけないことくらい。
カカシ先生が心配しているのも、分かっている……つもりだ。
毎回の様にカカシ先生に諭される言葉。
『俺とお前が付き合っている事を知っている人間は少ない。だから、お前が頻繁にここに来ても、他の人間からすれば、俺と仲がいいんだ、くらいに思われるだけだろう。お前は俺の班だったしね』
しかしね、とカカシ先生は続ける。
『憶測が邪まな噂になる事もある。そうでなくても、お前にはそのような噂が多い』
それは、知っている。
オレってば、最近色んな人から誘われるようになって。
それは、何でか姉ちゃんばかりではなくて。
男の人も多くて。
恋愛感情を含んだお誘い。
そりゃ、カカシ先生と付き合っているくらいだから、男の人から声を掛けられるのも、無いとは言えないのだろうけれど。
でも、それが心配だとカカシ先生は言った。
『俺がお前と付き合っていると知れば、自分にもチャンスがあると、手段を選ばずお前にモーションを掛けてくる輩も出てくるだろう』
オレは、そんなのには着いて行かないって言ったけれど。
『お前がどうする、ではないんだ』
カカシ先生は首の後ろをかきながら笑った。
『俺が、嫌なんだ。落ち着かなくなる。俺と同じような気持ちで、他の人間がお前を見るのが……耐えられない』
要するに、と先生は言った。
『お前のプライベートは俺が……俺だけが、独占したい。だから……俺の仕事中は、我慢して』
額に落とされたキスに、オレはそれ以上の抗議が出来なくなる。
「今日はオレの分は弁当持ってきた。だから、一緒に食うってばよ」
「食事の後に調整会議が入っている。ゆっくりは食事を取れないから、お前は戻りなさい」
「ちょっとの時間でもいい」
「ナルト……」
カカシ先生は笑いながらも、困ったようにオレを見る。
(困らせたい訳じゃないんだ……)
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2013.8.19.