ナルト・カカシ誕生日

□2014.お前がいい
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「あっ……」

勢いが付き、壁へと身体がぶつかる。

驚いてカカシ先生を見上げる。
今度は、表情があった。

怖い、と感じる。

静かに。

けれども、威圧を感じる眼だった。



「お前、今日は何してたの?」
「……」

カカシ先生こそ、何をしていた、と思う。
これまでと、同じ様に。

「出掛ける予定は、俺とじゃなかった?」
「……」

(何で……)

カカシ先生は別の相手と居た。
それは色んな人が見ている。
俺は待っていた。
でも来なかったのはカカシ先生の方だ。
はっきりとした約束はしていないけれど。



(先生は俺と会う気なんて無かったじゃないか)



これまでに何度もあった事だ。
これが初めてでは無い。



「何で何も言わないの?」
「……っ」

カカシ先生から両肩を掴まれる。



「――サイが、いいの?」
「!」



息を飲む。

「楽しそうに、していたね」

抑揚のない声で、再び消えた表情で、カカシ先生が呟く様に言う。

「――キスも、逃げないんだね」
「っ……」

どこで見られた、と思う。
同時に、あれだけ街の中に居れば誰かが見ているのも当然だと。

「明日も、一緒に居るの」
「……か……」

静かな声で責められる。

カカシ先生の静かな目。

激しい情は見えないけれど。

それが逆に怖い。



(何で、カカシ先生が怒るの)



逆に俺は、感情が溢れて来る。

これまで堪えていた、色んなものが。



「関係……無いってばよ」
「っ……」

やっとそう声を出すと、今度は、カカシ先生が息を飲んだ。

「カカシ先生だっていつも約束すっぽかすってばよ! 俺がサイと出かけたって……カカシ先生には関係ないだろ! 気にする事も無いんだろ!」
「……!」

言いながら、目に涙で幕が出来る。
それを辛うじて零さない様に、カカシ先生を睨みつける。

カカシ先生はやや乱暴に俺の身体を離した。



(あ……)



カカシ先生の目が、怒っている。

それが何故か、嬉しかった。



――怖いのに。



カカシ先生はいつもにこにこと笑っていたけれど。
時々、怖いくらいの無表情も見せたけれど。

こうして怒る事は、一度も無かった。

俺に興味が無いのかと、思っていたから。

少しでも、カカシ先生の感情を波立たせることが出来るのかと。

少しでも、気にしてくれるのかと。



こんな時なのに、心が騒ぐ。



「――俺、サイと約束した」
「明日の予定か?」
「違う。カカシ先生と、話さない、て」
「!」
「今、もう、カカシ先生と話した。サイとの約束を破った」
「その約束が何だと言うの? 口約束、でしょ」
「約束が守れなかったら、サイ、俺の身体を、貰うって」
「っ!」

カカシ先生の目が大きく見開かれる。

息を飲んで。

俺を見つめる。



(……こんなに見つめられた事、あったっけ……)



付き合いだしてから、無かったように思う。
それだけでも、今回の事は良かったのかもしれない。

「――それで、お前、サイに抱かれるのか?」
「そんなつもりはないけど、約束は、破っている。それを隠すつもりはない」
「……」

カカシ先生は首を振った。
それからマスクを外す。
ややうつむき加減のその表情は、ひどく傷ついているように見えた。



(何で、カカシ先生が傷ついた顔をするの)



罪悪感が俺を襲う。



(何で……)



どうしていても。
何があったとしても。
これまでのカカシ先生との時間は何ものにも代えられないもので。

付き合いだしてからの時間も、全てが嫌な時間では無くて。
楽しい事や嬉しい事も多くて。

やっぱり、カカシ先生が好きだと思う。

恋愛感情を抱くのも。

カカシ先生だけだと。



「……シカマルが」
「え?」

突然、全く脈絡のない名前が出てきて、俺は顔を上げる。















――――
2014.10.12.
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