ナルト・カカシ誕生日

□2014.お前がいい
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カカシ先生は俯いたまま、これまでと同じ抑揚のまま、言葉を続けた。

「ナルトが別の相手と会っていると、今朝、伝えに来た」
「今朝……?」

そんなはずは無い。
俺は、朝はカカシ先生を待っていた。

「誰かと同棲を始めるから、一緒に部屋を見に行くらしいと」
「部屋? 何の事だってば?」
「……実際に言われた所に来てみれば、お前はサイと会っているし、共に不動産屋も見ていた」
「えと……? 何を言ってるんだってば?」

首をかしげて。
俺の顔を見たショーウィンドーを思い出す。
そういえば、あの場所は不動産屋で、言われて見れば、部屋の間取りが張り出してあったような気もする。

(何、だってば、それ……)

「それから、サイと一日デート? その上、俺と話せば、サイがお前を抱くと? 2人はそんな間柄? ――俺は、間男だったの?」
「まおと……何だってば? それ」
「……」
「……何で。カカシ先生、今日も、誰かと一緒だったんだろ?」
「……」

カカシ先生はバツが悪そうに眉をしかめる。

「先生こそ、俺と付き合うとか、どうでもいい事だったんだろ? 色んな人の中の一人だったんだろ?」

言いながら、再び涙が出て来た。
確認したく無かった事。
口にしてしまえば、事実と認めているようなもの。
ずっと、逃げて来た事。

「知ってたってばよ。先生。付き合う前から、カカシ先生は特定の相手を作らないって。色んな人と遊んで、遊びで済ませるって」
「……」
「俺もその中の一人。……分かっていたってば」

だから、強い態度に出られなかった。

「……」

カカシ先生は息を飲むと、玄関へと腰を下ろした。
片手で顔を覆う。

(否定、しないんだってばね)



沈黙が、肯定を示している。

遊びだと。

特定の相手ではないと。



ズキリと胸が痛む。

また、息が苦しくなる。



その様子を見ながら。

それでも、と思う。



「それでも……俺」



カカシ先生の前へと跪く。



「俺、カカシ先生が好きだってば。カカシ先生がどこかへ行きたいのなら仕方がない。俺に止める事は出来ない。でも、先生が好き。戻ってきて欲しいと思う。……俺、誰よりも、先生の事――っ?」



言い終わらないうちに、カカシ先生から抱きしめられた。



「うっ……」



痛いくらいに。

きつく。

息も出来ないほど。

カカシ先生の腕が俺を抱き寄せる。



「せん……」
「黙って」
「あ……」



腰を抱かれ、頭を、カカシ先生の胸へと押し付けられるようにして、抱き締められている。
先生の鼓動。



(速い……)



「――怖かった」



しばらくして、カカシ先生の絞り出すような声が聞こえた。

「誰にも本気にならないんじゃない。……なれない、んだ」
「……なれ、ない……?」

(どっちも同じ事、なんじゃないってば?)

カカシ先生が力なく首を振る。
カカシ先生に抱き締められ、カカシ先生の声が、カカシ先生の胸を通して聞こえて来る。

「心を奪われるのが怖い」
「好きになるのが怖いて事だってば? 何で……」

尋ねると、カカシ先生は小さく息を吐いた。

「執着して、それがダメになったら?」
「……え……」
「同じものなんて一つも無い。同じ人間も、一人も居ない。――それなのに、大切なものができて、それが、無くなったら?」

カカシ先生の掌が、俺を確認するかのように、何度も俺の髪を撫でる。

「無くなるのが怖い。だったらたった一つのものを作らずに、たくさんの手持ちがあればいい。そうしたら、無くなっても……」

怖くない、とカカシ先生が呟く。



「――俺は、弱い人間だ」



耳に届く低い声は、これまで聞いた事のない声だった。

力が無くて。

どこか不安定で。

自信すらうかがえる、いつもの飄々とした感じじゃなくて。



(……カカシ先生じゃないみたいだ)



全くの別人に見える。

でも。

きっとこれが、カカシ先生の本来の姿なのだろう。

何も隠さない、カカシ先生の姿。




何の疑いも無く、そう感じた。
















――――
2014.10.12.
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