牡丹

□near
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昨夜の記憶は曖昧だった。



続いた大雨に、堤防が崩れそうだと、夜中に召集を受けた。
ガイ等と共に、大雨の中、その修繕をして。
部屋へと戻ったのは明け方だった。
ひどく体力を消耗した。

部屋へと、戻った筈だ。

恐らく、シャワーも浴びた筈。



――その筈、だが。



(何故、俺は……)



身体の節々が痛い。
横になっていたのは、土の上だった。
太陽はまだ上ったばかりであろうか。
柔らかな陽の光が、目に優しい。



(ここは、昨日来ていた……?)



修繕した堤防の近くで。
泥だらけで、俺は倒れていた。
何があった、と、思い返そうとする。

しかし。



(――何故、思い出せない?)



明け方だった。
酒なども飲むはずが無い。
翌日の任務の事もあり、疲れてもおり、すぐに眠った筈。



(そうだ、今日も任務が入っている)



ゆっくりと身体を起こすと、背後で気配があった。

一瞬身構えるけれども。



(これは……)



よく、知っている気配だ。

ほっとして振り返る。
少なくとも、今の俺の現状について、一緒に考えてくれる相手だ。

「どうしたんだ、お前、そのなりは……」

ガイは、驚いた様に俺を見ていた。
いつもの服を着ている。
堤防の様子を見に来たのだろう。

「ガイ……それが」

いつものように苦笑したが、ガイは不審げに眉をひそめた。



「? お前……? 何故、俺の名を知っている?」
「は……?」



彼なりの冗談だろうか。

(いや、こんな場面で冗談が言える程のユーモアセンスは感じた事は無いが)



「お前こそ何を言っているんだ、ガイ」

言いながら、自分の格好を見て息を飲む。



(……何だ、この格好は……)



一般的な服だ。

しかし。



(こんな服、買った覚えは無い)



俺が選ぶ服のデザインとは、かけ離れている。
履き物も、一般的に広く履かれている靴で、忍び用の靴では無い。
そもそも、持っていない筈の靴だ。



(どういう……事だ?)



「その身なりに、チャクラの質……一般人か。里では見ない顔だが、どこの者だ」
「っ……」

険しい顔でクナイを突きつけられる。



(俺に、見えていないのか?)



自分の顔を触るが、どこが違うのか分からない。



「ガイ。落ち着いて聞いてくれ。何故か俺はこんな事になっているが、俺だ。俺は、かか……うっ」

カカシだ、と伝えようした。
しかし、その瞬間。

「くっ……」

立っていられないほどの激しい頭痛が、俺を襲う。
一気に冷汗が噴き出る。

「あっ……ぐっ……」
「お前、大丈夫か ? ひどい顔色だ。お前の身柄拘束も含めて、とりあえずは火影の所まで来てもらうぞ」

激しい頭痛の中。

俺は了解の為に頷く事が精いっぱいだった。



















――――
2014.10.30.
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