頂き物・リクエスト2

□650000打リク・その先に
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しばしその表情に見惚れたが、俺は首を振った。

「――ダメだよ、ナルト」

そっと、ナルトの唇に指で触れた。

「それ以上は、ダメだよ」
「っ……先生……!」

この先には、何も無い。
応える気が無いなら、否定してあげなければならない。
これまでの相手にもそうしてきた。
成り行きで抱いた相手も居たが、決別ははっきりと示して来た。

「俺、俺は、先生が……!」
「――何も、無いよ」
「え?」

ナルトの肩を押し、ナルトの眼を覗き込む。



「俺と恋愛しても、何も、無い、よ」
「!」



ただの空虚を抱く事になる。
それは偽りの、一時的な欲求が満たされるかもしれない。

しかし、何も無い。

子も作れなければ、共に年老いていく楽しみも共有できない。

「お前には、お前に相応しい相手が居るはずだ」
「俺は先生がいい!」
「……」

真直ぐな眼差しは、しかし、俺の霞んだ感情をどうにか出来るとは思えなかった。
ナルトの為と口では言いながら、恋愛のできない己を隠したかったのかもしれない。

「先生じゃないとダメだ! もうずっと、先生が、俺は――」
「――だが俺は」

被せる様に言葉をつなぐ。
お前を愛せないと。
好きにはならないと、そう、伝える必要があった。

「……俺は、お前にそう言われても、どうする事も出来ない」
「じゃあ、何で……!」

ナルトの両目が潤み、少し赤くなっている。

「何で、最初にキスした時に拒まなかったんだってばよ!」
「……」
「俺の気持ち知ってて! ……何で、何回も、キスさせたんだよ……!」
「……」

俺を掴んでいるナルトの手が、白く、震えていた。
何で。

(何で……)



――断る事が出来なかった。



それは、今までの俺の人生、そのもののようでもあった。
人に流され、生きてきた。
やっと手に入れた自我は、それでも、全て、里の為のものだ。
自我というにはあまりにも俺から離れている。
里の忍びという以外に、俺を造るものは無い。



(こんな、心の遣り取りなど知らない)



「――お前は里の宝だ。俺なんぞに懸想している暇があったら」
「そんな事知らねぇってばよ!」
「っ……!」

大きな声を出したナルトに、床へと押し倒される。
大きな蒼い目が、俺を見下ろしていた。
こんな状況なのに、それはひどく美しくて、俺は瞬きも忘れたままその様子を見つめていた。
涙が、雫となり落ちて来る、その様子を。

「俺の中には先生しか居ない。先生の中に俺の居場所が無くても、もう、俺は、先生しか見る事が出来ない」
「――結婚、するんだよ」
「え……」

静かに告げれば、大きく開かれる美しい双眸。
蒼い宝石の様なその眼が、揺らめく。

「他国の忍びと、結婚、するんだ」
「――誰、が」
「俺が。お互いに顔合わせはしている」
「顔合わせ、て……」

ナルトが首を振る。

「先生は、その人の事好きなのか?」
「……」

嫌い、では無いのだろう。
しかし、好き、でもない。
俺の無言の返答に、ナルトは首を振る。
何を思ってか、その表情は苦痛に歪んでいる。

「……何、で……」
「お前にもいずれ、分かる――」
「分かるかよっ!」



(7度目の、キス……)



涙の味がする。

ナルトの。













――――
2015.2.10.
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