頂き物・リクエスト2

□670000打リク・追憶
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「……でさ、その姉ちゃんをさ、間一髪、川に落とさなくて済んだんだけど、俺が姉ちゃん抱きかかえてるもんだから、姉ちゃんの彼氏って人がすごい剣幕で俺んとこに来て」
「誤解されちゃったんだ」
「そうだってばよ。説明して分かって貰えたのが、それから30分。任務よりも説明しに行ったって感じだったってばよ」
「それは災難だったねぇ」

何気ない話をしていた。
いつもと変わらなかった。
いつものように一緒に夕飯を済ませて、帰り道だった。
分岐の道で、いつものようにちょっと立ち話をして。
ふと、会話が途切れた。

「……」

そしたら帰ろうかと、口を開きかけた瞬間だった。
不意にナルトの顔が近付いて。



「……?」



何が起こったか分からないまま、思いのほか近くにあったナルトの顔を見つめていた。

「……っ」

再び、ナルトが俺に口づけようとして、咄嗟に、制止の手が出た。



「やめなさい」



その手が微かに震えているとは、察知されなかったはずだ。
何故なら、それ以上に、ナルトの肩が震えていたから。

「ご、ごめん、てばよ」

曖昧なナルトの笑み。
それは、受けた傷を前面に出していた。
少年から青年へと成長しようかとしているその姿は、その両方の色香を匂わせている。
蒼い瞳が揺れ、形の良い唇が、笑みを作ったまま、震えていた。

「あ……」

きびすを返し、逃げる様にナルトは去って行った。
追いかける余裕は無かった。
掛ける言葉も分からなかった。

(……お前が急にそんな事をするから……)



一日の内、誰よりも長い時間を過ごしていた。
時間が合えば、食事や何やと、共に過ごした。
そこには明白な、自分の意思と意図があった。
傍に居たかった。
少しの時間でも。
仕事以外の殆どの時間を、ナルトと過ごしたいとさえ思っていた。
はっきりとした、答えはそこにあった。
それなのに、咄嗟に制止してしまったのは。



(この時間を、壊したくなかった)



思い返して後悔する。
抱き締め返して、キスに応じれば良かったと繰り返しても、ナルトの背はもう遠い。



(明日、お前はまた、いつもの様に俺に顔を見せるだろうか)



いつものように食事に誘えば、いつものように笑顔で応じてくれるだろうか。
後悔が、何度も、去って行ったナルトの背を思い出させた。
傷ついたナルトの表情に、足は竦んで動く事が出来ないのに。

(お前の、その、キスの意味は――)

俺の感情と同じものだったのか?

(――いや)

俺も男で、ナルトも男で。
俺もいい年だ。
ナルトとて、もう、誰かと恋愛をしておかしくない年齢だ。
そのナルトが。

(その気でなければ、キスなんてしないね)

分かりきった事だったのに。



(ナルト……)



何度もナルトの名を、心で呟く。

俺はナルトが、好き、なのだろう。
――いや、好き、なのだ。
恋愛という意味で。

だから、この先も彼の傍に居る事を望んでいた。
それなのに、手に入りそうだと分かった瞬間に、俺は逃げた。
手に入れば、いつか無くしてしまう事を考えなければならなくなる。
それは、これまでの人生の中で何度か経験していて、それらは全て、少しの恐怖と、後悔を俺に与えていた。
ナルトは――ナルトだけは、無くしたくない。
それよりは、この、穏やかな時間の延長を望んだ。

(欲しい、のに)

今すぐに追いかけて、ナルトを捕まえ、俺も好きだと言えばいい。
それなのに。

(無くしたくなかった)

優しい時間が壊れてしまう事を恐れて、俺は逃げた。
ナルトにキスを止めさせて。
あの、傷ついた表情を、俺がさせた。

(どんな顔をして会えばいい……?)

星空の下、俺は随分と長い時間を、そこで過ごした。






****






翌日、どんな顔をしていいかと悩んでいた俺の元へ、綱手様直属の知らせが入った。
空を舞う鷹に、取りあえずは急いで支度をして、綱手様の元へと向かう。
今は考えている時では無い。
その事が、いくらか俺の心を軽くした。



――綱手様に、緊急招集の理由を聞くまでは。



「ナルトの姿が無い」

「え?」



それは、ナルトもこの場に呼ばれているのに、来ていない、という意味なのかと思った。
しかし。

「今朝、ナルトの部屋の玄関は開いていた。警備の者が偶然発見した。声を掛けようと、警備の者が室内へと入ろうとしたが、玄関口でナルトの靴が、不自然に片方だけが、転がった状態で発見された」
「それは――……!」
「昨夜の事のようだ。現在、ナルトの所在が分からない」

伝える綱手様の顔は、ひどく険しかった。
















――――
2015.6.27.
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