頂き物・リクエスト2

□670000打リク・追憶
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「……何も、無いですね」
「そうみたいだね」

一通り捜索班と現場を見たが、特に何も見つからなかった。

――いや、何も、不自然な程に、何も見つからなかった。

「発見当初は、洞窟内に、誰かの足跡さえありませんでした。ナルトは、宙でも浮いて運ばれたのかと……」

洞窟内に生えていた雑草(かなり小さなものだ)の一部が倒れており、その上にナルトが倒れていたという。
何か変化があるとすれば、それくらいのものだ。

「我々もこの前を一度通っています。しかし、その時は誰も、この洞窟の存在に気が付かなかった」
「え?」
「はい……3人居りましたが、誰も……」

伝えてきた暗部が頷く。
仮面をしているが、その下は苦渋の表情だと安易に予測がされた。

「お恥ずかしい事ながら、術の気配すら察知する事が出来なかった。いや、こうしていても、ここに何かの術が発動していたという残り香のようなものさえ、察知する事が出来ないのです」
「……確かに、何も、ないね」

術の後の、空間が戻った後に生じる僅かな歪みの気配さえ、ここには無い。
自然の中で、まるで空気の様に、ここには何も違和感は無かった――無い事が、気味が悪いと感じる程。
例えば、街の喧騒の中で、一部だけ、一瞬だけ無音の一帯を捕らえる様な、そんな感じだ。
一瞬の後には、その尻尾を見失っているような。
何も違和感が無い事に、違和感がある。

「で、ナルトは? 意識は?」
「はい。声を掛けると直ぐに目を覚ましました」
「そう……」

安堵の息が漏れる。

「怪我は?」
「ありません。ほぼ無傷です」
「……無傷……?」

再び、あの違和感が俺を包む。

「足の裏は? 靴を片方していなかったようだけど」
「靴は履いていませんでした。どこかで落としたのか……傷はありませんでした」
「……」

傷は無いと聞いて安心したものの、ナルトの治癒力の高さが人とはけた違いという事を思い出し、この情報があまり意味をなさなかった事に息を吐く。
ただ、命に関わるような大怪我はしていないということだ。
それだけは、俺を安心させる。

「カカシさん」

話している所へ、空中からサイが降りて来た。

「お疲れ様です」
「お疲れ様。何か見つかった?」
「いえ。とにかくは、ナルトが見つかって良かったです。――けれども、変だな」

背後の洞窟へと視線をやって、サイは首を傾げる。

「昨日もここを通ったんです。でも、こんな洞窟あったかな……」
「! そうなんです! 誰も、気付かなかったんです」

頷いて、暗部の彼は身を乗り出した。
見つけきれなかった事が彼自身を責めていたのだろう。
少し救われた声だった。

「今日、突然現れたという感じで……空間でも歪んでいたのかな」
「!」

サイの言葉に、そういう忍術を思い出す。
ナルトの部屋の玄関からここまで、空間移動を使えば、足跡を残す事なく、ここまで来る事が出来る。
その際に靴が無くなったとしても、異空間に紛れてしまっていれば、その気配をすら察知する事は出来ない。

「カカシさん、もしかして……」

シカマルも同じ事を考えたようだった。

「移動手段をそうだと仮定して考えようか」
「だとしたら、やはりどこかにその痕跡があるはずです」
「これまでに報告されている空間忍術を全て検証してみよう」
「綱手様の所に戻りましょうか」
「ああ」

現場は気になったが、取りあえずは戻る事にした。
また、何か情報が出ているかもしれない。
何より、早くナルトの顔を見たかった。






****






「ナルト!」

綱手様の元へと戻ると、既にナルトが到着していた。
椅子へと座り、もう既に検査などは済んでいるという。
俺の声に、ナルトが振り返る。
あの日の夜の出来事から、どうやって顔を合わせようかと考えていた事など、すっかり忘れていた。
ナルトに怪我は無かった――見る限りは。

「お前、大丈夫か? どこも痛い所は無いか? 腹は減ってない?」

我ながら、どこか間抜けな質問をしているとは感じたが、言葉を止める事が出来なかった。
攫われた形跡のあったあの状況に、胆が冷えたのは事実だ。

見つかって良かった。
それだけが、俺の頭を占めていた。

「えっと……」

ナルトが困ったように微笑む。

「あ……」

あの夜以来、初めて顔を合わせるのだ。
その時になってやっと、俺はあの時、ナルトを拒んだ事を思い出し、遅れて来た気まずさに、言葉を止めた。
まさか、この場で、本当はあの時、自分もキスしたかったのだと言う訳にはいくまい。
どうにかして、あの時の弁明をしたいと、言葉を探す。

「ナルト、話が出来る様になったら、話したい事がある」
「……」

再び、ナルトは困ったという表情をした。
笑みが消え、ナルトも何の話であるのか分かったのだと思った。

「えっと……」

小さく首を横に振って、ナルトは俺をじっと見上げた。
美しい蒼い光が、真直ぐに俺を見つめる。

――抱きしめたいと、思った。

愛しいと認識した時には、何もかも遅いと感じたが、まだやり直せる気がした。

「待ってるから」
「……あの、な」

被せる様に、ナルトが口を開く。



「――誰、だってば?」

「え……?」



ナルトの眼が細められ、俺を見つめる眼には、明らかな戸惑いが映っていた。



「あんた……誰だってば……?」

「っ!?」











――――
2015.7.5.
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