頂き物・リクエスト2

□670000打リク・追憶
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「……どういう、意味、だ……?」
「……」

一瞬には状況の把握が出来ず聞き返すと、ナルトは困ったように俺を見詰めたまま、首を横に振った。

「――ナルトは何を言っているのですか」

綱手様へと助けを求めると、綱手様は何も答えずに、ただ頷く。

「俺だよ、ナルト」
「あ……」
「はたけカカシだ」

自分でもおかしいくらいに、動揺が俺を襲っていた。
ナルトが何を言ったのか、分からなかった。

――或いは、理解を拒んだのか。

「いや……あのな」

ナルトが呟く。
その声には、微かな恐れが含まれていた。

「……あんた達、誰だってばよ」

戸惑いを乗せた声には、混乱が混じる。

「さっきから、何、言ってんだってばよ? 俺が『ナルト』だという事は分かった。……でも、何故、何も思い出せないのか分からない。どうして俺は、あそこに居たんだ? 何があったんだってばよ?」
「……」

それは、俺達の方こそ知りたい事だ。
当の本人は混乱している。

随分長い沈黙の後、綱手様が静かに口を開いた。

「――とりあえず、ナルト、お前客室で休め」
「……姉ちゃん、綱手、様? だったっけ」
「……」

ナルトの言葉に、一同が言葉を失う。

「お前、覚えていないのか?」
「だから、分からないって言ってるだろ。覚えてるって、何がだってばよ。覚えているも何も、何も分からないから、何を覚えていて何を覚えていないかも分からないってばよ」

少し、苛立ったようにナルトが俺を見た。

「何であそこに居たのかも分からない。自分で行ったのか、連れて行かれたのかも分からないってば。それで何を覚えてるって言うんだってばよ」
「ナルト……」

心配をしていた。
明日、ナルトにどんな顔をして会えばいいのかと。
顔を合わせ、まず何を言えばいいのかと。

(……ナルトの、記憶が、無い……)

ナルトは時々、どこか眩しそうに俺を見つめる事があった。
そうでなくても、いつも、俺を見つめる眼には、慕うような甘さが込められているように感じていた。
何があったとしても、ナルトは、俺を全て受け入れるだろうと、そこには根拠の不安定な、けれども確実とすら言える期待が存在していた。

(ナルトだけは、俺を拒まない、と――……)

自分が、甘い好意を持たれていると感じていた。
しかし今、ナルトが俺へと向ける眼には、どこか不信さえ伺わせるような色が差されている。
甘さなど無い。
ただ、見知らぬ相手を見つめる眼だった。
俺を知らないと云う眼だった。

(……思いのほか、重いダメージだ、ね)

積み上げ、重ねられてきた時が、全て無くなっている――いや、そもそも、ナルトの中では存在していない事になっている。
その事が、酷く憂鬱な気分を俺に与えた。

(今はそんな感傷を抱いている場合では無い)

無理矢理に思考を止め、俺は顔を上げた。

「ナルト、俺が部屋まで案内する」

客室は、この火影執務室のある棟の、火影執務室と同じ階にある。
そこには渡り廊下を通る必要はあるが、遠い距離では無かった。

「だから、誰だってばよ。あんた。はたけカカシって、名前だけ解っても……」
「――綱手様は『ねえちゃん』で、俺は『あんた』か」

つっかかるつもりは無かったが、俺を見つめるナルトの眼に感じている落胆が、俺の言葉に刺を入れた。

「でもあんた、『にいちゃん』って年には見えねぇけど……」
「――確かに、そうだね」

ナルトとの年の差を思い出し、俺は苦笑する。

(それでも……)

ナルトは俺とキスしたいと思ってくれていたのだ。
自分から、口づけたいと、そう、思ってくれたのだ。
行動を、起こしてくれたのだ。
俺の様な、ナルトからすればいい年の、しかも男に――。



(――俺と同じ気持ちでいてくれた)



「カカシ」

綱手様が、何かを投げてよこした。
客室の鍵だろう。
しかし、2つついている。

「1つは扉の鍵だ。もう1つは、裏口の鍵だ」
「裏口?」

聞き返したナルトに、綱手様は頷いた。

「表の扉の鍵は、カカシが持て」
「「え……?」」

同時に声を上げて、ナルトと顔を見合わせる。
ナルトの眼には、明らかな戸惑いと、拒否の色が浮かんでいる。

「俺、閉じ込めるのかよ。確かに記憶は無いけど、さすがにそれは……」
「違う」

首を振り、綱手様はひとつ息を吐いた。

「お前は忘れているようだが、お前はこの里では、ひどく、有名人だ」
「ひどく……?」
「そんなお前が何日も客室に居ると分かれば、少なからず、憶測が飛び、人々に動揺を与えかねない。それは、避けねばならない」
「……俺、何したんだってばよ。犯罪者だってば?」
「違う」

綱手様の言葉に、ナルトはますます強い困惑を見せる。

「逆だ。お前に何かあったのかと、ここに心配した人々が詰めかけても困る。……なので、出入りは裏口を。カカシが客室を訪れる分には表からで構わない。何か連絡が必要な場合は、カカシ、お前が連絡を取りもて」
「……はい」

綱手様は、『いつものように』俺にナルト付きを命じただけだったのだろう。
しかしその事は、少なからず俺の心中をざわめかせた。

「……カカ……シ……?」
「……うん?」

呟く様にナルトが俺の名を呼び、俺はナルトへと顔を向けた。

「あ……」

ナルトが驚いた様に目を大きく開く。
その頬が、何故かほんのりと色づき、今度は俺の方が息を飲む。

「ナルト?」
「あ……いや、何でも……」

首をかしげるナルトに、俺は目を細めた。

(もしかしたら、やり直せるのかもしれない……)

あの夜を。
苦い記憶を、塗り直せるのかもしれない。

(ナルトを、抱きしめる事が、出来るかもしれない)

それは、ひどく甘い誘惑で、俺の心をかき乱した。














――――
2015.7.11.
※更新遅くてすみません。
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