頂き物・リクエスト2

□670000打リク・追憶
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部屋は客室というだけあり、広く、とりあえず必要と思われる家財一式が揃っていた。
家具はどれも一級品ばかりだろう。

(上客用の部屋だからね)

一般の部屋では、ナルトの事が漏れてしまう。
その点では、ここの部屋からは、何か秘密が漏れるような事は無い。
知っているのはごく一部の者だけだ。
警護に当たるのも、限られた者だけとなっている。

(これだけ、ナルトの存在が大きくなってるって事だね)

それは、嬉しいような寂しいような、奇妙な感情を俺に与えた。
先程俺に向けられた、他人を見るような目と、慕う様な目と。
ナルトが、俺の手の届かない所に行ってしまう様な、どこか不安を与える感情だった。



「うわ、広……」

ナルトは覚えていないだろうが、確かに、ナルトが現在住んでいる部屋よりは広いだろう。

「何か落ち着かねぇな」
「寛ぐといいよ」
「冷蔵庫でっけ……。何入ってんだってばよ」

冷蔵庫を開けるナルトの様子に、ナルトの部屋の冷蔵庫は大丈夫かと思う。

(期限切れの牛乳が入ってた事があったね……)

随分前の事だが、はっきりと覚えている。
まだナルトはアカデミー生だった。
それからどれくらいの月日が経ったのか。
どれくらいの時間を一緒に過ごして来たのか。
数値にすれば、結構な値になるだろう。



(いつから、俺は……)



彼を愛していたのだろう。

そしてナルトも。

いつから俺を意識してくれていたのだろう。



「俺の部屋の冷蔵庫とか大丈夫かな。部屋も。何か腐るもんとか置いてないかな」

しばらくは、ナルトが部屋へと戻る事は無いと思われる。

「そうか……お前の部屋、俺が片づけに行ってもいいか?」
「えっ、なに、何言ってんだってばよっ!」

ナルトは驚いた様に声を上げた。

「他人に部屋に入って貰う程、俺、度胸ないってばよ! 部屋ん中どうしてたかも分かんないのに」
「……」

(他人……)

ナルトの言葉を心中で反芻する。
俺の沈黙をどうとったのかは分からないが、ナルトが俺へと視線を向けた。

「……カカシ、あんた、俺とどういう関係だったんだってば? 綱手の姉ちゃんも、迷わずあんたに俺の事を頼んだだろ。あんたも、拒否しなかった」
「……」

再び、俺は口を噤む。
どういう関係?

(どういう関係……)



『カカシ先生』



甘く優しい時間を思い出す。
それは表現するには難しく、また、それを今伝えてどうなるのかという現実的な考えも浮かんだ。

「……お前は俺を、『先生』と呼んでいた」
「先生……?」
「お前は、俺の班の班員だった」
「えっ、あんた、俺の上司だったってば?」
「まあ……そんな所か」
「そうなのか。……その、ごめんってばよ。あ、敬語だったってば?」
「いや……」

俺は首を横に振る。

「今のままでいい。呼びたければ、『カカシ』でいい」
「そんな訳にはいかないだろ。カカシ先生」
「……」

今のナルトにとっては、付け焼刃の呼称だったのかもしれない。



(『カカシ先生』)



けれども、同じ発音だった。

俺を呼ぶ、愛しい声だった。



目を細める俺に、ナルトは戸惑ったように視線を揺らす。

「え……俺、何か変だったってば?」
「いや……いいよ。それで、いい。お前は、オレの事を、そう呼んでいた」
「そっか」

納得した様に頷き、ナルトは部屋へと意識を移したようだった。
いちいち感想を言いながら棚の扉や浴室の扉を開けてみているナルトの背を見つめ、再び俺は、あの日の夜、走り去って行ったナルトの背を思い出す。
あの時、一瞬見せた、傷ついた目。
戻れるのならば、引き止めて抱き締めたいと、何度も繰り返し思った。

(……戻れるのなら……)

ナルトの背が、周囲から際立って見える。

(お前の……)

その背へと、手を伸ばした。

その自分の行動が、やけにゆっくりとした動作に感じられた。



「えっ……」



ナルトの驚いた声。

無意識だった。
気が付けば、浴室を覗き込んでいるナルトを、後ろから抱き寄せていた。

「……カカシ、せんせ……?」
「……」

ナルトの戸惑った声が聞こえたが、返事はしなかった。



(ああ……)



溜め息が漏れる。
こうしたかったのだ、あの時。
こうして抱き寄せ、口づけたかったのだ。
ナルトの肩へと顔をうずめると、ナルトの匂いがした。

(温かい……)















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2015.7.17.
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