頂き物・リクエスト2

□670000打リク・追憶
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「……せ、先生……」
「……」

ナルトが微かに身をよじる。
しかしそれは、俺の腕を振りほどくほどの力では無かった。

「な、なに、してんだってばよ」
「うん……」

戸惑うナルトの声に、俺は小さく頷く。
ナルトの身体が熱いように感じた。
早くなっていくナルトの鼓動が、手に伝わって来る。

(お前のこの動悸は、俺に触れられてのものなのか? それとも、ただの動揺? 俺の事は、関係ない?)

それは、心地よい感触だった。
ナルトは絶対に俺を受け入れるだろうと、以前から感じていた根拠のない自信が、再び俺を包んでいこうとする。

「……あの、俺……多分そういうの、慣れてないんだと思う。だから、カカシ先生……これ、ちょっと……」

ナルトの戸惑いが、愛おしかった。

「……お前が無事で良かった」
「ああ……何だ、そういう事だってば」

囁く様に呟けば、ほう、と、ナルトが息を吐く。

「心配かけて、ごめん」
「お前がこうして戻って来たのなら、もう、そんな事は、どうでもいい」

ナルトを抱き締める腕に、力が入る。

「……もう、会う事は無いのかと思っていた……」

あの夜、どんな顔をして会えばいいのかと長い事動く事が出来なかった。
もう、ああして2人で会う事は無くなるのかと、恐ろしかった。

「会いたかった……」
「……苦しいってばよ、先生」

逃げる様に、ナルトがもぞもぞと動いた。
それは、今度は、俺の腕を外す事に成功する。

「いつでも会えるだろ、同じ里内だし、俺はこうして、戻って来た……んだろ? ここが、俺の居る場所なんだろ?」
「……そうだね」

ナルトの居るべき場所。

(それが、俺の隣だったら……)

俺の横で、この先を過ごしてくれたら――。

「ごめんね。……腹は減ってない? 何か作るよ。取りあえずは、冷凍食品しか入ってないけど。後で食材、仕入れて来るね」
「あ……うん、腹、減ってる。どんくらい飯食ってないんだろ、俺……」

言いながら俺の腕を逃れたナルトは、何故か顔を俺とは別の方向へと向けていた。

「ナルト?」
「あ、いや……俺、向こうで待っとくな」
「……お前……」

首の後ろをかきながらちらりと俺の方を向いたナルトの頬は、明らかな紅色を差していた。
耳も、ほんのりと色づいている。

「ナルト」
「あ、この本、面白そっ」

逃げる様にリビングへと戻って行ったナルトの背を、再び抱き寄せたい衝動に駆られる。

(――何故、そんな顔をするの?)

抱きしめる腕を咎めてはいたが、嫌がっている様子では無かった。
本気で、逃げ出そうとはしなかった。
ナルトの匂い、体温。
意図を持って抱き締めたのなど初めてであったのに、それはひどく懐かしく、また、心落ち着かせる行為だった。
いつまでも、抱き締めていたかった。

(そんな事をすれば、ただ抱きしめているだけでは済まなくなるだろうけれど……)

キッチンへと立つと、ソファーへと座っているナルトの後ろ姿が見える。
パラパラと本のページをめくっている。
その顔色は、もう、普段のそれに戻っていた。
先程の紅潮は消えている。

(お前は今、何を思っているの?)

いつ、ナルトは思い出すだろう。
その時、今の俺の行動をどう思うだろう?
ナルトを拒否していながら、自分の欲求だけは通した俺を……。

(――本当に、思い出すの?)

もし、この先もずっと、ナルトが思い出さなければ。
記憶が、戻らなければ。

(優しい時間を、もう一度……今度は、間違う事無く、選択できる……?)

愛しさだけがこみ上げて来る。
このまま、この部屋でナルトが過ごしてくれるなら。
鍵の掛かる、この部屋で、部屋から出ることも無く――。

(ナルトが、俺以外の人間と、もう、会う事がなくなれば……)

ふと浮かんだ考えに、俺は小さく息を吐いた。
自嘲の笑みが漏れる。
ナルトが伸ばして来た手を1度拒んでおきながら、自己中心的な浅ましい独占欲ばかりが浮かんで来る。
そんな思いを抱く資格なんて無い。
そう、分かっているのに。
明日もまた、こうしてナルトと過ごせる事を期待している。

(こうして、この先もずっと、お前を見ていられる事を、望んでいる)

それは、もう、この先も、ナルトの記憶が戻らないという事を意味しているのに。

(それでも、俺は……)

この、不安定な、けれどもどこか優しい時間を、手放したくないと思っている。
もう二度と、こうして2人の時間を過ごせないと思っていた。
諦めるには、まだ時間が必要だと、気分が重くなっていた。
その上で、どう顔を合わせればいいかと、恐怖すら感じていた。

「……」

ナルトの後ろ姿を見つめる。

(ここにナルトがいる限りは、ナルトは、俺を……)

ほの暗い感情が、俺を満たしていこうとしている。
この、甘い期待の仮定は、ナルトを救わない。
解っているのに。

(お前を愛していると、口に出来たら……)

もう一度、口づけたい。



『ここが、俺の居る場所なんだろ?』



(そう、ここが……お前の居るべき場所だったら……)













――――
2015.7.19.
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