牡丹
□偽恋
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新しい術というのは、日夜開発が進められている。
それは里の運命を握るようなものから、日常の生活を助けるもの、取るに足らない些細な術まで、多岐にわたる。
綱手様の所にて。
俺は些かの逡巡の後に、やっと一言を繰り出した。
「……で、その術をどうしろと」
「うむ……」
「その術が蔓延でもしているのですか。いったいどの位の範囲で影響が。収拾がつかないという意味ですか」
「……ああ……」
どこか複雑な表情でうなずく綱手様に、俺はそれがどこまでの本気か冗談かを測りかねていた。
「いや、どうしろというか……だな、どうした、というか」
「?」
「……ナルトがかかった」
「はい?」
「その術に、ナルトが掛かった」
「……は……」
「……」
「それは……」
下らない、と喉まで出かかった言葉を辛うじて飲み込んだ。
術の内容が内容だ。
下らない、の種に入るだろう術。
それが里のどうこうに関わる事はまずあり得ないだろう。
「……いったい誰から掛けられたのですか」
報告を受けているこの状況を考えれば、とても他国の敵やスパイなどとは考えにくい。
というより、その術にかかるナルトもナルトだ。
「ナルトを振り向かせたかったそうだ。それで、恋をさせる術を」
「はぁ……」
確かに、ここ最近のナルトの人気はすごい。
男女を問わず、年齢を問わず。
中には、困った行動を起こす者も、これまでも何人かいた。
「……で、目覚めて初めて目にした者に恋をする……というその術は、いつ消えるのですか。ナルトはもう目を覚ましました?」
「いや、まだだ。術で眠らせている」
取りあえずの対処としては正しいだろう。
ベストとはいかないが。
「その術はある程度の能力があれば使えるのですか。公式な術ですか」
仮にも、ナルトに掛ける事が出来たくらいだ。
その辺の一般庶民ではなかろう。
「公式では無い。ただ、ある程度の能力があれば使えないことも無い。この里でも数人は使えるだろうが、術式は全て回収している。これ以上の拡大の可能性は低い」
「その、ナルトに術をかけた相手が覚えているでしょう。そこから広がる事は」
ふむ、と綱手様は頷いたものの、少しだけ安堵の息を吐いた。
「今回の使用者が術式を完璧に覚えている可能性は無い。術自体が失敗している。いくつかの印を結び損ねていた」
少しだけ空恐ろしい気がした。
印を結び損ねても、術自体はある程度の完成をしていた、という事か。
「……中途半端に、術にかかってしまっているという事ですか。術式が完璧ではない以上、解術も……」
「ああ、確立はしていない」
「……で、どこから持ち込まれた術なのですか」
「それはまだ調査中だが、里内のようだ。……それも……」
そこで一旦言葉を切ると、綱手様は小さく息を吐いた。
「ナルトを狙っての術開発だったようだ」
「九尾の……?」
「いや、ナルト個人のだ」
「え?」
「ナルトに恋するあまり、だな」
「はぁ……」
改めて、ナルトの人気を思い知ると言うか……。
「それで、解術はどうするのですか」
「出来たらナルトが寝ている間にと考え対処していたが、どうも間に合わせる事は不可能と結論が出た」
「……誰かを当て馬に使うのですか」
「早い理解で助かる」
つまり、ナルトの術が解けるまで、誰かに恋をさせておく、という訳だ。
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2014.7.28.