ミムラス!

□ナイフよりも鋭利な凶器
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そこにはなぜか私がもう一人居た。見覚えのある屋上、目の前には私が前まで想って居た人。それは紛れも無く先週の告白現場だった。

「―…くんが好きです。」


「ごめん、俺最近彼女出来たから水口とは付き合えない。」


かと思えばいきなり景色が変わり、夕暮れの教室だった。先程まで居たもう一人の私の姿が無く、目の前には山崎君の姿があった。


「俺、詩杏ちゃんが好きなんだ。」

「……ご、」


ごめん、ってそんなたった一言なのに言葉が出て来ない。その言葉に相手がどれだけ傷付くかを知っているから。


*****


嫌な夢を見たものでものすごく憂鬱だ。朝から銀ちゃんのところに行こうかと思うものの、SHR前にそんな話しに込む時間は無く仕方なく教室に入る。

まだ山崎君は来ていない様でホッとした。席に座り鞄を机に置きその鞄を枕にして寝たフリを装う。


「ねぇねぇ、昨日銀ちゃんの家に行ったんだけどさ―。」


銀ちゃん、という声に反応する。これは私の前の席に座るクラスのマドンナちゃんの声だ。
それにしても、家ってどういうこと?私は机に伏せたまま話を聞く。盗み聞きじゃなくて前で喋る方が悪いだもの。

「え―、まじで?ヤったの?」「まぁね。結構悪く無かったよ」

……銀ちゃんとヤった?
何だそれ。鈍器で殴られた気分だった。先生が周りの女の子とそんなことしていたなんて知らなかったし、するとも思わなかった。


あ、やばい。よくわからないけど目に涙が浮かぶ。絶対この涙は可笑しいのに。そう分かっているのに抑えようとすると余計に溢れて来る。


彼女達は私の心境など知るはずもなく話を続ける。

「良いな先生と、なんて。私も誘ってみようかな?」
「今晩はA組の子だって言ってたかな?」
「でも意外だよね―。前はいくら誘っても無理だったのに。」
「なんだか昨日からみたいだよ?」


…………昨日、から?
昨日と言えば銀ちゃんは土方先生と何か言い争っていたのを覚えている。何かあったのかな、なんて考えていると隣から机に鞄を置く音が聞こえた。


「詩杏ちゃんおはよう。」


声の主は勿論お隣りの席の山崎君。彼はいつもと変わらない様子。ならば私も普段通り返さなきゃいけないのだが、いかんせん涙が止まらなくて顔が上げられない。

「詩杏ちゃん?もうすぐSHR始ま―…!」


私が本気で寝ていると思った山崎君は私を起こしに掛かる。机から顔が無理矢理離され目線が合うと彼は物凄く驚いた顔をしていた。

騒がれたら困るので唇に人差し指を当て「し―、」と言うとこくりと頷いてくれた。

「…なんで泣いてるの?、」


「わかんない、です。」


半分本当の半分嘘。
山崎君はため息を着くと私の腕を掴み無理矢理立たせた。
その音が結構大きかったようで周りの人がこちらを見る。

「とりあえず行くよ。」

山崎君はそんなの気にする様子も無く私をぐいぐい引っ張る。我に返った私は慌てて「何処に?」と尋ねたら「思いきり泣ける場所」とだけ返ってきた。それ答えじゃないよ。とは思うだけにしておいた。


SHR間近で教室を出ると廊下に坂田先生が居た。私の心臓は異常に速くなる。隣には土方先生ではなく、女子生徒。多分先程教室で話されていたであろう先生の今晩のお相手A組の人。

先生は私達を見ると「山崎―何処行くんだ?。」と声を掛けた。

「水口さん体調悪いそうなんで保健室連れて行って来ます。」


「そっか。」


興味無いと言わんばかり隣の女の子の体に触れながらそう告げる先生は何処か怖かった。

山崎君は「行こう。」と私の腕をぐいぐい引っ張る。


明らかに昨日までとは違う態度に驚きを隠せない私は先生の方を振り返る。
先生は私の時と同じ様に女の子の頭に手を置きぽんぽんと撫でていた。
たったそれだけでまた理不尽な涙が溢れだしそうになった。

Title by シングルリアリスト様.


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