ミムラス!

□あなたを捜して迷子になった
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山崎君に連れて来られたのは屋上。私達しか居ない広い屋上の真ん中で向き合って座っていた。

その頃には、最近屋上よく来るなって冷静に考えられるほど私はだいぶ落ち着いていた。

「…ちょっとは落ち着いたかな?」

私が頷くと共に1時間目開始のチャイムが鳴り響いた。「…サボっちゃおうか?」と無邪気に笑う彼に対して私は「うん」とだけ答えた。

山崎君はとてもとても優しくて、けど彼からの優しさは今の私にはちょっと辛かった。先生からのだったらどれ程嬉しいのだろう、なんて思っている時点で私はもう駄目かもしれない。

彼は大きく息を吐いて寝転ぶ。
私はそんな気になれなくて座ったままで居た。


「それにしても坂田先生には驚いたな。あんなことしてたなんて。」


何気ない彼の一言。
たったそれだけなのにクラスのマドンナの言葉や先生が他の子に優しくする姿が浮かんで来て、やっと止まった筈の涙が再び溜まってきた。

それに気付いた山崎君はぎょっとして飛び起きるも、私の気持ちに気付いてしまった様で罰の悪そうな顔をしていた。

そして核心を突くように一言。


「……あのさ、詩杏ちゃんって坂田先生が好きなの?」


何も言わないのは肯定と見なされ彼は盛大にため息を着き「そっか。」とだけ言った。


多少の無言が続いた後、山崎君は徐に立ち上がるとフェンスの方へと向かいグラウンドを見下げる。私はその姿を視線だけで追う。


「俺多分詩杏ちゃんがアイツのこと好きになってから多分好きになったんだと思う。」
彼が話し出した話は私のこと。
とりあえず、黙って聞いていることにした。


「隣の席になれて本当嬉しかった、話してからはより惹かれたよ。

―…女の子って恋すると可愛くなるっていうけどあれ本当だね。あの時俺が惚れはじめた時もそうだけどさ、」」


こちらを向き真っすぐと私の目を見て、


「今の詩杏ちゃん、凄く可愛いよ。」


と告げ今まで見たことの無いくらいの笑顔で言ってくれた。
…どこまでこの人は優しいんだ。私も彼にちゃんと伝えなきゃいけない。


「…や、山崎君っ!私のことを好きになってくれてありがとう。」


たくさんの感謝の気持ちと、

「でも、ごめんなさい。」

彼が前に進めるための言葉を。


山崎君は照れた様に頬を掻くと再びグラウンドの方を向いた。
「ちょっとは立ち入る隙が有るかなって思ったけど、全く無かったみたいだね。」

そう小さく呟いた彼の言葉は私の耳には届かなかった。





1時間目の授業が終わったところで私達は屋上を出て一緒に教室へと向かう。


「で、詩杏ちゃん。坂田にはいつ告白するの?」
「ええっ!」
「だって好きなんでしょ?それに、女遊びだって早い内に止めといた方が良いよ。」

女遊び、か。はっきり言葉にするとそうなるのか。けど、そんな大変なこと私に、

「…止められるのかな?」

「なんで坂田があんなことしてるかわかんないけど、昨日詩杏ちゃんと話してるとき坂田凄く幸せそうだったよ。だから、詩杏ちゃんになら、きっと。」


にこりと笑みを浮かべる彼を見てたら不思議とそんな気がしてきた。山崎君の彼女になる人はとても幸せだろう。けど私は「まぁ、万が一振られたら俺のところに来てね。」って言葉にはきっぱりと「無理です。」って答えたけどね。

「……今日。」


あまりに声が震えて小さい声になってしまい、すかさず横から「え?」と尋ねられる。


「私、今日の放課後銀ちゃんに告白する。」

驚いていた彼も、優しく笑うと「頑張れ。」と軽く背中を叩いてくれた。


******



時は放課後。
髪良し、化粧直し良し、制服よし!
一週間前に告白した時、私はとにかく緊張、緊張、緊張だった。けれど、今回は、


「よし。行ってらっしゃい」


山崎君が着いていてくれる。本当は応援なんてするの嫌だろうに、彼はそんなそぶりを全く見せない。

「行ってきます。」


私はそう告げて教室を出た。どうか山崎君に幸あれ!、私が言うのもおかしいんだけど。



さて向かうは国語準備室。はっきり言って、緊張半分、怖いの半分。



こんな時程時間は短く感じるものであっという間に国語準備室に着いてしまった。ここまで来たらすることは一つ。とりあえず深呼吸を一回、そしてコンコンとノックをする。


「………。」


中から返事は無い。けれどがたがたと慌ただしい音が聞こえる。何か嫌な予感がする。けれど、ここまで来て引き返せる様な状況では無かった。

意を決して私はドアを開ける。


「坂田先生少し用事が―………!?」



そこには下着姿の女子生徒と上半身裸の銀ちゃん、所謂事情中の2人が居た。
女の子は「なんで鍵掛けてないの!?」なんて言って慌てて服を着ようとしている。



どうやら私の涙腺は壊れているようで、気付いたら本日何度目か分からない涙が浮かんできて、銀ちゃんを見ると気まずそうな顔をしていて、私はいたたまれなくなってその場から逃げる様に走り出した。



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*******

…長かった、すみません!
どうしてもここまで入れたかったので。
次回は最初で最後の銀ちゃん視点です。

Title by シングルリアリスト様.


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