ミムラス!
□幻に消えたあなたの温もりが
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初めて見たのは泣き顔だった。
自分の明日からの職場であるこの学校で、校長からのものすご―く長い説明が終わり、一服するために来た屋上。
扉を開けるとそこで涙を流す彼女と目が合ってしまった。
「放って置いてください、すぐ出て行くんで。」
なんて強がり吐いてるけれど彼女はもの凄く弱々しく見えて…。気付いたら自分のジャケットを脱いで彼女の肩に掛けていた。
「こんな所にずっと居たら風邪引くぞ、着とけ。」
名前も知らない女の子にそんなことするなんて、自分で自分に驚いた。
―…只、最初に見た彼女の泣き顔が忘れられなくて、彼女の笑顔が見たくて。
これが総ての始まり。
翌日、昨日ジャケットを彼女に貸した俺は、真冬にYシャツ出勤(金が無くて2着も持ってね―んだよ。)をして周りの先生から痛い目で見られた。
けれど、不思議と後悔は無く、彼女の為に何か出来たなら。と思っていた。
そして、土方君(大学の時の同級生で何かと気が合わねぇ奴。)に連れられやって来た教室。
「3学期から現代文の授業を受け持つ坂田銀時だ。宜しくな―…、ってあ―っ!」
自己紹介の途中で見付けた俺のジャケットと彼女の姿に思わず興奮してしまった。幸運な事に俺は彼女のクラスの副担任になったらしい。
これが二度目の出会い。
出会い方が特別なものでなんか彼女が気になるな、なんて思いながらその昼休み一服しようと廊下を歩いていると、
「「あ」」
噂をすればなんとやら?で詩杏ちゃんと遭遇。ここまでくれば意識しない方が可笑しい。
結局屋上に2人で行き、仲良く5時間目をサボることになった。
まぁその分彼女の色んな免を知ることが出来た。昨日の彼女の理由、昨日みたく弱々しい姿、ちょっと毒舌なんかもかましてくる所。
「「ま、いっか。」」
そして初めて見る彼女の笑顔。
泣いた顔なんかと比べものにならないくらい可愛い。
―…もっとこの子の笑顔が見たい。そう思い始めた頃には彼女に惚れていたと思う。
事が起こったのは、土方が出張に行った日。俺は土方に変わり6時間目のLHRをやり終え、放課後になり、国語準備室へ帰ろうとすると、鞄に顔を埋めた詩杏ちゃんがまだ教室に居たのだ。
またなんかあったのか、って聞いたら山崎を待っているらしい。付き合っているのかと思ったら同じ委員会らしいのでちょっと安心。
部屋を知らないらしいけど、俺もこの学校に来たばっかりだから分からない。まぁ知っててもちょっとでも詩杏ちゃんと居たいから言わないけど。
だって、くだらないことで話し合って笑ってるこの時間が何より幸せだから。
「詩杏ちゃん。」「坂田。」
呼んだのは山崎と出張から帰って来たらしい土方。土方は俺のことをかなり睨んでいる様だった。詩杏ちゃんにじゃあな、と告げて土方の元へ行けば、案の定「話がある」とだと。俺達は国語準備室へ向かった。
国語準備室に着くなり土方は煙草を吹かしはじめた。吸うなら屋上行けっての。
俺は冷蔵庫から買い置きしておいたいちごみるくを取り出し自分の席に座る。そして土方を横目で見遣る。
「出張から帰って来て早々そんなに俺に会いたかったの―?」
「んなことあるか。」
「………でさ、わざわざ詩杏ちゃんとの楽しい時間を壊しといてなんの用事な訳?」
言いづらそうにしてたヤツもようやく決心したようで、ため息を着いては俺を真面目に見据えた。
「単刀直入に言う。…御前水口のことが好きなのか?」
……予想外の質問。
思わず口に入れたいちごみるくを吹き出してしまいそうになるのを堪えた。
「……好きだけど。キスしたいとかそういう意味でな。生の女子高生とか抱いてみたいよ「ふざけるな!」
突然大声に俺は耳を塞ぐ。
相変わらずお堅い奴だよ、こいつは。
「そんな真剣に怒んなくても良いじゃんか。」
「御前はもっと真面目に話せ。」
「で、好きだったらどうしてくれるわけ。応援でもしてくれんのか?」
「全力で引き離す。」
こりゃあ本気の様だ。
まぁ、先生と生徒の恋なんて禁断だしな。
「面倒だな。あれだろ?必要以上に関わんなきゃ良いんだろ?」
そう言うと土方は「分かった。」と言って職員室へ戻ろうとした
「これはお前のためでもあるが、大前提として水口のためだ」
とだけ言い残して。
「…分かってるよ、んなもん。」
帰り道俺を待ち伏せしてた女の子を家に連れ込みヤった。なんとも思わなかった。向こうは俺のことが好きなようで凄く喜んでたけど、俺は何も感じなかった。嬉しいも、悲しいも、楽しいも。只残ったのは快楽だけだった。
次の日噂を聞き付けてかずっと俺に擦り寄って来ていた女が国語準備室に来た。
「ねぇ、どうしてあの子は抱けて私はダメなの?。」
開口一番それだ。ったくモテる男は辛いな、なんて自嘲地味に笑ってみた。
御前だけがダメなんかじゃねぇ。俺は、詩杏ちゃんじゃなきゃもう一緒なんだよ。
「―…んなことねぇよ?今日は御前が良い。」
けど、心はどう思ってても口では幾らでも嘘がはける。女は嬉しそうに俺に擦り寄って来て振り払うのも面倒になりそのまま教室に向かった。
教室の前までくると山崎と山崎に腕を引っ張られて出て来た詩杏ちゃんが出て来た。
こんなSHR間近な時間に2人で何処行くのかと尋ねれば、
「水口さん体調悪いそうなんで保健室連れて行って来ます。」
先程から、というか俺にあってからずっと詩杏ちゃんは俯いたままで俺の顔を見ようとしない。
彼女は多分知ってしまったのだろう。俺が、昨日生徒に手を出したのを。
山崎の野郎が一緒に居るのはすげぇ気に入らないが、彼女が俺のせいでで悲しんでいるのかと思うと少し心が痛むがそれを必死に堪え、興味がないと言わんばかりに
「そっか。」
とだけ伝えた。
山崎の声に伴って2人は行ってしまったが、俺の気持ちは未だ動揺していて似ても似つかない隣の女を詩杏ちゃんに脳内でみたてて頭をぽんっと撫でた。
*****
今日は詩杏ちゃんと一言も話さずに放課後を迎えた。
これからこんな毎日が続くのかと思えば凄く憂鬱になったが、それは今は快楽と共に消し去ろうと思う。
というのも、今朝準備室に来た女が今晩は無理だとか言い出して、それなら放課後にという話になり、現在放課後の国語準備室に俺と彼女の2人なのだ。
「先生、待ちきれなくて…。」
今時の女子高生というのはこういうものなのか。上手い様に俺を誘ってくる。とりあえずそれに応える様にキスをして彼女をソファーに押し倒しその上から跨がる。
片手でボタンを外し、スカートのチャックを下ろしたた時コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。そこでようやく俺は鍵を掛けるのを忘れたことに気が付き慌てて目の前の女を机から降ろし、服をかき集める。
しかし、直ぐに扉は開いてしまったのだ。
「坂田先生少し用事が―………!?」
そこに居たのは詩杏ちゃんだった。気まずい雰囲気の中、ちらりと見えたその顔には涙が浮かんでいて、手元にあったYシャツを羽織りボタンを留めると俺は彼女を追い掛けるように国語準備室を飛び出た。
何やってんだ、俺は。
彼女の泣き顔が、初めて出会った時のものと重なって、胸が締め付けられそうになった。
Title by シングルリアリスト様.
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