短編
□あの娘の本命の行方が知りたい
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「義理ですかィ?本命ですかィ、?」
現在、私女中の水口詩杏は真撰組1番隊隊長沖田総悟さんの部屋で彼に向かってチョコの入った包みを渡しております。
彼はというと突き出された包みをまじまじと見つめ受け取るでもなく、上記のように告げました。
……何故こうなった!
それを話すには少し前に戻らなければいけません。
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1週間前、
屯所の厨房では女中達が集まって会議を行っていました。
「さて、今年もバレンタインがやって来たよ!」
先輩女中さんの声と共に会議スタート。
机の上には隊員一人一人の名前が書かれた紙が入った大きなくじ引きの箱が置かれている。
毎年女中は自分が引いた隊員にチョコをあげるということになっていて、これで隊員の人達はバレンタインデーに少なくとも1個はチョコを貰えることになっているのだ。
「詩杏ちゃん引こうか?」
そういって差し出された箱。
箱の目の前に居たことにより1番最初にくじを引いた。
………そして引いたくじの内容に愕然とした。
私の紙を覗いた先輩の女中さんは私とは対象にとても良い表情をしていた。
「あらら―、素敵なメンバーね?」
今年は女中1人に付き3人の隊士にチョコをあげることになっている。そして私の引いた3人とは、
『近藤勲』『土方十四郎』『沖田総悟』だったのだ。
何故に幹部3人んんんん!?
……しくじれば私の首が飛ぶ、確実に。←
さて、何を作ろうか。チョコ…は甘くて好き嫌いありそうだから、クッキーにしよう。
近藤さんは多分何をあげても喜んでくれると思う。
土方さんはマヨネーズを乗っけておけばきっと何でも、でもクッキーにマヨネーズは見るのも辛い。じゃあ、いっそマヨネーズだけあげるのも…いやいや、それは何か違う。やっぱりクッキーとマヨネーズ別々に渡そう、うん。
……そして一番の悩みが沖田隊長だ。
彼は実は私の想い人だったりするので、今回のくじ引きラッキーと言えばラッキーなのだが手の抜いたものなど渡せばきっと受け取って貰えない。
かといって特別料理が出来るわけでもない。
「あ―!どうしよう!」
仕事中に頭を抱えて叫んでいる私を見て隊士の人達が憐れんだ目で私を見ていたのはまた別のお話。
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そしてバレンタイン当日、
クッキーを作り、ラッピングもばっちり。
朝食終わりのに近藤さんの元へ行き、「いつもありがとうございます。」と感謝の気持ちと共にクッキーを渡せば「詩杏ちゃ―ん!」泣きながら喜ばれた。
他の2人の姿は発見することが出来なかったので、別々に部屋を尋ねるとする。
「土方さん」
「入れ。」
声を掛ければ素早いお返事。
扉を開けると山積みになった資料が積んであった。
「何の用だ?」
「えっと、今日バレンタインなので、宜しかったらどうぞ。」
クッキーの包みとマヨネーズを差し出せば驚いた顔をした後、「ありがとな。お前良い嫁になるぞ」と嬉しそうに言われたもので、私もそんなに喜んで貰えるなんて作って良かったな、なんて思っていると土方さんはマヨネーズだけを受け取ろうとしたので無理矢理クッキーも手の中に入れてやった。
さてと、無事2人に渡し終え最後は沖田隊長だ。
部屋の前で深呼吸。
「沖田隊長―。」
「……。」
へんじがない屍のようだ。
扉の前にクッキーを置いて退散しようとした時、
「詩杏何してんでィ?」
部屋の主の声に肩がびくりと跳ねる。ついでに心臓も跳ねたのは余談。後ろを向けばもちろん沖田隊長の姿があった。
「えっと、バレンタインなので。」
「入りな。」
有無を言わさず腕を引っ張られ中に入らされた。
「えっと良かったらクッ「義理ですかィ?、本命ですかィ?」
冒頭に戻ってこの言葉です、はい。
私が出したクッキーは受け取られることなく品定めするように見られています。
義理か、本命か。難しいな…。
「局長にも副長にも一応同じものをあげましたが…。」
「そうですかィ。」
ちょっと残念そうにする沖田さん。その表情を見て私は覚悟を決める。
「只、沖田隊長には他の人より愛情多めで入ってます!」
「それって?」
「…本命です。」
そういってやっと沖田隊長は私の持っていた包みを受け取った。そして「ありがとうございまさァ。」とだけ言って部屋を出て行―…
「ちょっ、ちょっと待ってください!返事は?」
腕を必死に掴んで引き止めるとため息をつかれた。そして、
「返事はホワイトデーにでもしてやらァ。俺の女になるんでィ、焦らしくらい耐えて貰わなきゃ困りやすぜ?」
と額に唇を落としていき、部屋を出て行った。部屋を出ていく時彼の耳が真っ赤だったのがちらりと見えていた。
title by ポケットに拳銃様
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