短編

□いつかあなたの傍で咲きたい
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「坂田先生―チョコです。」
「先生、受け取ってください」
「銀ちゃん!はい、どうぞ。」

朝のSHR終わりの教室はいつもと様子が違っていて、どこか浮ついている。きっと今日が2月14日、俗に言うバレンタインデーだからだろう。
私と両想いである(決して付き合ってるわけではない)副担任の銀ちゃんは朝から女の子に取り囲まれて鼻の下を伸ばしながらチョコを貰っている。


「囲まれてるね、坂田先生。」
「そ―ですね。」


隣の席の山崎君は唯一私達の関係を知っていて、結構気遣かってくれる。けど、お互い好き合っているだけであくまで禁断の関係ではないため私がどうこう言う権利は無く主に話を聞いてもらうだけなのだが。


「……詩杏ちゃん、怒ってる?」
「女の子達はしょうがないけど、鼻の下伸ばしてデレデレの銀ちゃんにはむかつきますね。」
「(……坂田先生どんまい!)」
「あ、山崎君!友チョコという名の義理チョコ」
「(……俺どんまい!)」

その時銀ちゃんがガン見して何か言いたげにしてたけど、私はふーん、と顔を逸らしてにこにこしながら山崎君にチョコを渡しました。


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本日最後の授業は現代文。
担当は勿論国語科の銀ちゃん。

結局銀ちゃん当ての昨日かなり手を掛けて作った本命チョコは未だ私の鞄の中に眠っているが、虚しくも放課後を告げるチャイムが鳴る。

今日提出となっていたノートを教卓に出しに行く、その時ちらりと見た銀ちゃんからは何か企んでいるような顔がちらりと見えた。


「―…じゃあ、クラス分のノートを詩杏ちゃん、国語準備室まで持ってくるように。授業終わるぞ。」

「えっ!?私」


悪い予感が的中してうなだれる私とは対称に隣でにやにやしていた山崎君なんて私は知らない。


鞄を肩に掛けクラス全員分のノートを持って国語準備室へと向かう。地味に、というか普通に重たい。

階段で躓きかけたことがあったもののなんとか国語準備室へと着いた。準備室の前には銀ちゃんが居て「はい、お疲れ様―。」なんて言いながら扉を開けてくれた。

とりあえず銀ちゃんの席にノートを置いて、一呼吸。そして鞄をかけ直して、


「酷いよ、銀ちゃんなんてもう知らない」

本当は銀ちゃんにチョコを渡して楽しい日を過ごす筈だったのに…。

捨て台詞を吐いて部屋を出ようとしたが扉の前には銀ちゃんが居ました。

「おっと、返さね―よ?
さすがにノート全部っていうと代わろうとする女の子も居ないわけで、」

カチャリ、と扉の鍵が閉まる音が聞こえた。

「俺と詩杏ちゃんの2人きりだ?」



先生はとても狡い。
いつもこうやって私を喜ばせる方法を知っているのだから。


「詩杏ちゃん、チョコは?」
「いっぱい女の子から貰ってたから要らないでしょ?」

それでもやっぱりちょっと面白く無いこともあったわけで意地悪がてらにツンとした態度を取ってみる。これくらい良いでしょ?

「いやいやいや!銀さん1番貰いたい子から貰ってねぇんですけど?」
「―…仕方ないな、はい。」


‘1番’の所を強調されて言われれば折れるしかなく鞄からチョコを取り出すが、銀ちゃんの口から出た言葉は意外なもので、

「ありがとな、じゃあ食べさせて?」

などと言って口を大きく開けている。突然のことに私は勿論びっくりで固まるしかない。

「だから、食べさせてって。」

聞こえなかったか、という風にもう一度告げられるが、ちゃんと聞こえてるっての(←)
けれど、普通には受け取っ手貰える様子もないので渋々了承する。

「は―い。じゃあその可愛いお口で頑張ってな?」


………は?
口でなんて聞いてない、聞いてない!

「女に二言はね―よな?。」

してやったりの表情を浮かべる銀ちゃんを見て鼓動が早まったのは内緒の話。
唇にチョコを挟み銀ちゃんの口元へと運んでいく、銀ちゃんがチョコを受け取ったら直ぐさま離れようとしたものの後頭部を抑え付けられ、唇が重なり甘い香りが口内に広がる。

「甘ぇな、やっぱ。」
「チョコなんだから皆甘いに決まってるでしょ?」
「違う。詩杏ちゃんは特別に決まってんだろ?」
「でも、付き合ってる訳じゃないでしょ?」
「そ―だけど。お互い好き合ってるには変わり無いだろ?」
「うん!」


幾年後かの未来、
私は銀ちゃんの隣でちゃんと彼女だと周りに言いはって、この日を迎えられたら良いなと想いました。


…って、あれ?作文になっちゃった?


title by ポケットに拳銃


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