奇跡の生還者達
□9.『2月14日(後編)』
1ページ/7ページ
9.『2月14日(後編)』
現在カオルは屋上にいた。
カオルはあれから何十人もの女子からチョコを渡され、さらにその中の数名からは告白までされていた。
避難的な意味で、カオルは屋上の給水塔の上に座っていた。
(この大量のチョコを……どうしろと……?)
カオルは脇に積み重ねてある大量のチョコを一瞥すると、深い溜息を落とした。
そして暫(しば)し考えたのち、携帯を取り出して、とある人物にメールを打ち始めた。
その後、授業が始まってもカオルが教室にやって来る事は無かった。
「カオル、何かあったのかしら……」
授業中、シャアラが隣にいるルナに小声で話しかける。
「う、うん……どうしたんだろうね……」
ルナはそう一言返すと、視線を机上の電子テキストに向けた。
向けただけで、テキストの内容は全く目に入っていない。
それどころか、教師の話の内容も全く耳に入っていかない。
脳裏に嫌というほど繰り返し浮び上がるのは、朝に見た光景。
それを思い出す度にルナの顔に影が差す。
ルナは完全にうわの空だった。
授業の最中、ベルの携帯が突如震え出した。
携帯の画面を見ると1件のメールが届いていた。
(カオルから……?)
ベルは思わず教室内を見回した。
そこにカオルの姿は無い。
ベルは視線を携帯へと戻し、メールを開く。
授業中という事を配慮してか、音声の出ないよう動画の無い、文章だけのメールであった。
『授業が終わったら、紙袋を何枚か持って屋上に来てくれないか?』
詳しい説明は無く、それだけ書かれていた。
(紙袋……?)
それが何を意味するのかよく分からないが、きっと理由があるのだろう、とベルは納得した。
画面を返信モードに切り替え、『分かった』と一言打つと、ベルは送信ボタンを押した。