奇跡の生還者達
□8.『2月14日(前編)』
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朝の通学路を、カオルは悠々と歩いていた。
基本カオルが登校する時間帯にはあまり生徒は歩いていない。
人混みがあまり得意ではないカオルにとって、この時間帯がもっとも気兼ねなく登校出来るのだ。
代わりに時間はいつもギリギリに到着してしまう事になってしまうが。
しかし、今日はいつもとは違った。
ソリア学園を囲うフェンスに差し掛かった所で、1人の女子生徒がカオルの存在に気が付くと、深刻そうな面持ちで近づいてきた。
カオルの前で少女が立ち止まり、自然とカオルの足取りも止まる。
「何か用か?」
カオルがいつもの口調で問いかけると、少女は体をもじもじさせ、顔を俯かせた。
俯いた顔はほんのり紅い。
「えっとね……その……こ、これ!」
少女は、歯切れの悪い口調で、後ろに回していた両手を前に差し出した。
その手にはリボンと赤い包装紙でラッピングされた小さな箱。
「……何だそれは?」
「ちょ……チョコだよ」
「チョコ……?そんな物を何故俺に?」
カオルは意味が分からないといった様子で首を傾げる。
「だ、だからその……私……」
この日、女性はチョコに自らの想いを込め、大切な人へと贈る。
必要なのは
一握りの勇気
そして真剣な想い……
今日は恋人の為の祭日
Saint Valentine Day
8.『2月14日(前編)』