記念作品
□相互記念小説
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「ルナ先輩は、今日は予定あるんですか?」
地球に建設された研究所で観測データの集計作業を行っていたルナに、後輩の女性惑星開拓技士が問い掛ける。
「予定?一杯あるわよ?データの集計が終わったら、試験で植えた植物の様子を見に行かなきゃいけないし……それから……」
「いや、そういう事じゃなくてですね……」
ルナの的外れな返答に、後輩はガックリと肩を落とした。
職場内でもルナの鈍感さは周知されている。
その鈍感さに、口説こうと近づいた男共は尽(ことごと)く撃沈していった。
一部では恋愛そのものに興味が無いのでは?とまで噂されている事を本人は知らない。
「ルナ、今日は何月何日や?」
側で話を聞いていたチャコがルナに質問を投じた。
「今日?えっと……12月24日……だったよね?」
「じゃあ、12月24日は何の日や?」
「クリスマス・イヴ……だよね?」
間違ってはいないはずなのに、ルナは何故か自信なさげに疑問形でチャコの質問に答えた。
「ほんなら、それを踏まえた上でもう一度さっきの質問に答えてみぃ。ルナは今日予定はあるんか?」
そこまで言われれば、さすがのルナも察しがついた。
「あ……そういう事か〜!あはは〜」
質問の意図を理解できなかった自分が恥ずかしく、照れ隠しにルナは空笑いをして誤魔化した。
ここまで説明しなければ通じないのか、とチャコと後輩は呆れた様に深い溜息をつくのであった。
相互記念小説
『Christmas carol』
「それで、ルナ先輩は予定はあるんですか?」
「う、うん……一応」
「え!?そうなんですか!?誰と過ごすんです!?」
今まで浮いた話など出た事が無かったルナなだけに、思わず後輩は興奮して声を大きくした。
それに周りの同僚達も反応を示した。
その光景が何とも面白く感じられ、チャコの中で軽い悪戯心が生まれる。
「何や?みんな知らなかったん?ルナには将来を誓い合った婚約者(フィアンセ)がおるんやで?」
チャコの爆弾発言に所内は騒然とした。
今までどんなに口説かれようと気がつかなかっのはそんな理由からだったのか、といった声まで聞こえてくる。
「ちょ……チャコ!何言ってるのよ!?私達まだそこまでの関係じゃ……」
そこまで言いかけ、ルナは絶句した。
チャコの表情は何故かにやけ顔。
「『まだ』という事は……いずれはなるつもりなんやな?」
墓穴を掘るというのは正にこういう事。
ルナはまんまとチャコの策略にはまり、同僚達の前でカミングアウトしていた事に気が付いた。
顔を紅くしたルナ、腹を抱えて大笑いするチャコ、ルナの恋愛事情を知り黄色い声をあげる女性職員、ルナに気があった肩を落とす男性職員。
クリスマス・イヴの研究所は繁華街と同等に賑(にぎ)やかなものとなった。